昔、吠舞羅をこけにした連中らをシめて追いかけ回した際に、
隣で其の様子を見ていた草薙さんに言われた言葉を思い出した。
全然本気にしないように微笑みながら、
“そないに人追いかけ回して、いつか八田ちゃんは追いかけられる側にならんとあかんな”
って。
悪い子にはお仕置きが必要、なんていうような口振りだったから嫌でも忘れないだろうなんて思っていたけど
とんなタイミングで思い出してしまった。と思う。
草薙さんは侮ってはいけない。
あの人は、未来を予言できるだろう。





八田美咲は現在三名の男らに追いかけられていた。
下心丸出しな男と、良心につけこみつつ部屋に持ち帰ろうとしている腹黒男と、むっつり、に。
其の追いかけっこも今になれば一時間程経過していた。



「何時まで追いかけてきてんだテメー等あああ!!」



背後にまだ三名がいると把握すれば思いっきり叫ぶ、
迷惑を考えろなんて言ってられない、
捕まったら確実に何かを失うだろう。
でも決死の叫びすら消音して追いかけてくる三人には、きっと心なんてないな。
と実感したのは今にない。
腹黒こと伊佐那とむっつりこと夜刀神と出会った公園が豆粒ぐらいに見える距離まで走って見えてきたのは
壮大に出立つ何者でもないセプター4のアジトであった。

無駄足を踏んでしまったと、右折しようとした其のとき、
見張り員がいないことに気付いた
何時もあんなに厳重に見張りを置いているくせに今日はいないものだから遠慮なく隠れさせてもらうことに決めては
門を潜り煉瓦の影に隠れてはもと来た道、または追いかけてきている彼ら三名の様子をみやる、
それはまた運の良いことに彼らは八田が此処に入ったことをまだ気付いていないように見えた。
このまま撒いてやろうと心なしか笑みを浮かべ背後を振り返り走ろうと前に前進した次の瞬間、
ぶつかった。

青服の人に。


「セプター4に、何かを御用ですか八田美咲くん。」



それは紛れもない。
青の王宗像礼司だったという。
背中に寒気が走って、嫌な汗が頬をつたる。
今にも牢にぶちこまれそうな現在の状況に、あ、の一言も口からは溢れなくてただ唖然とすることしかできず
無言を突き通した。
するとくいと宗像に顎を捕まれ持ち上げられる、
驚きからか、八田の瞳が揺れた。
沈黙のなかでの其の行為は全くもって八田には何がしたいのかわからなく少しの不安からか足が震える、


「八田くん、」



宗像の低音な心地好さまで感じる定着のある声に緊張の糸が緩み始める。
レンズ越しに合う瞳と瞳を八田からも逸らすことはなく見つめ合う一時ができた、とき。



「室長、何故部外者の侵入を許しているのでしょうか」



右腕に資料を抱えた淡島が此方に近づきながら言葉を漏らした。
淡島の存在に気づくと宗像は八田から手を話してはうすら笑みを浮かべる。
御説教でも始まるのかと解放された八田は思考の回転が早まり始めた頭で考えては情けのないものだと溜め息を吐く。
部下が上司に説教など普通あってはならぬものだろう。
八田はガミガミと怒りだす淡島に背を向け早足に出口へ向かっていった、
が矢張そんなにはうまくいかず肩をがしりと掴まれた


「八田美咲、一度、私の部屋に来なさい」


「何でだよ」


「命令だ、私の部屋に来い!」


「嫌だね!」


「来なさい!!「やだ!!!」


「じゃあ八田くん、私の部屋に」



背後から掴まれた肩に力を入れられ、ぐいと引っ張られると対面する形となった。
すると常識人間だと把握していた眼前の淡島が唐突、部屋にこないか等ほざき始めたものだから驚かざる負えない、
決死にぶんぶんと首を左右に振っては逃げようと抵抗するが
途中背後から宗像に腰辺りから手を回され、腹で交差する。
其のとき。



「美咲ぃ、此処にいたのか……て、ふくちょ?!」


どうやら先程の言いあいが聞こえたのか伏見にこの場所に居たことがばれたようであった、
伏見はスキップ染みた歩き方で門を潜るや否満面の笑みを浮かべているものの
視野に映った上司等を見れば唖然とする。
淡島は若干ヒキぎみであり、
宗像は真顔だった
真顔は真顔で怖いのだが。
すると伏見は八田ら(所謂背後から宗像に八田が抱き締められてますよ図)を見るや続けて唖然とする暇もなく宗像に掴みかかる


「ちょ、アンタ美咲に何してんだよ!」


「上司に向かって其の口調ですか伏見く「美咲に向かって何してるんですか!!」


伏見は八田の手首を掴んでは前から引っ張る、
八田は痛みから目をぐ、と強く閉じ苦痛の表情を浮かべているが二人は気付いたようすもなく、
子供が玩具を取り合うようなしょうもない喧嘩を飽きずに続けている。
淡島は額に手を当て、長い溜め息をはぁーと吐いた。
そして一向に終幕の見えぬ闘いに希望すら瞳にともさない八田に、
其は唐突、
救いの手が伸ばされたのだった。







「何してるの??」




一度まばたきをした時に何があったのか、
眼前に広がるのは永遠の白の背景と。
裸体の少女だった。











[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ