AmouR.

□#08.りんごのとなり
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「夏目さん、クラスの宿題職員室まで持ってきてくれる?」

『…はい』


新学期が始まり、私はすでに大忙し。
夏が明ければ秋がきて。

そして文化祭が始まる。
とても楽しい文化祭が。


東「ごめんね、学級委員の子がいなくて夏目さんに頼んでもらっちゃって」

『いえ。平気です。悠太たちとも離れられますし…』

東「…悠太くんたちと何かあったの?」

『あぁ、そういうわけじゃないんですけどね』


妬みの的になるのは嫌だし、
偶には男だらけの中にいるんじゃなくて
他にしたいことができればなって。

そう思ってるだけで。


東「うーん、でも無理に離れなくてもいいんじゃないかな」

『…』

東「友情に男女は関係ないと先生は思うんだけどね」

『あー…まあ、そうなんですケド…』

東「なにか不安?」

『いじめられないか不安…です』

東「あはは、大丈夫だよ、夏目さんは良い子だし…。それに今までそんなことなかったんじゃない?」

『それが不思議でならないんですよね…?』


東先生は優しい言葉でさとしてくれる。
だから頼れる。
生徒を信じてくれてる。
だから好きなんだ。

それは、尊敬的な意味で。


東「もしも夏目さんがいじめられたら、僕が助けてあげるから」

『それは頼もしいです』


東先生も悠太たちと同じくらい人気のイケメンだから、
すぐに逃げていったりぶりっ子しそうだけどね。


なんてひねくれる。


そんなことは敢えて言わずに
たくさんのノートを机に置いた。
「ありがとね」と笑顔を向ける先生に
「どういたしまして」と返すと職員室をあとにした。


普段は女ッ気のない学校生活を送っているが、
私にもガールフレンドはいる。


「美雨ちゃん、久しぶり」

『リナちゃん。どうしたの?』

「あ…えっと、悠太くんと仲いいよね?」

『うん?どうかした?』

「あのね」





『悠太に告白したらOKされた…と』

「う、うん…!どうしてだと思う…!?」

『え…ただ単に好きだったからじゃ』

「それは絶対ないの!だって悠太くんって……、」


赤く染まった顔は羞恥からくるもので、
リナちゃんは現状に現実味を感じていないようだ。
そして上目遣いで見つめられた。
あれ、なんでこんなに見つめられてるんだろう。


『?』

「あ、な、なんでもないよ…」


首を傾げると手をひらひら振って
また膝に置いた。


「あの告白がその場のノリでやらされたって知ったら、悠太くん怒るかな…」

『怒りはしないよ。悠太、優しいし』

「そうかなー…」

『そうだよ。私だって前に借りた悠太のノートに落書きしたまま返したのに怒られなかったもん』

「それは…すごいね」


猫の全体像なんだけどねー、というと
絵が上手いの?って聞かれて、
並々には、というと
じゃあ描いてみて、と。

何気ない会話なのに
彼らとのことを思い出してしまう。

この会話が彼らとしたことのあるものだと
脳が覚えてる。



 【うまいね】



この優しい声が
残ってるんだ。


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