キセキと白猫
□憧れた瞬間
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「深織っち。今日一緒にマジバ、寄らないっスか?」
部活終わり、ボールのたくさん入った籠を用具倉庫に仕舞ってすぐ、涼太くんにマジバへ誘われた。
『…でも、征くんと帰るし…』
「今日だけ!今日だけでいいんス!お願い!」
『……』
顔の前できっちり手を合わせて、懇願してくる黄色いわんこ。
一向に諦める様子のない彼に、私は頷く。
『それじゃあ…ちょっとだけ。帰り…送ってね』
「もちろんス!深織っちとならいつでも一緒に帰るっスよ!」
ぱぁぁっと表情を明るくした。
そんなに嬉しそうにしてくれると、なんだかこっちも嬉しくなってしまう。
モデルの笑顔の力は侮れない。
*
いつも一緒に帰ってくれる征くんに、今日は涼太くんと帰ることを伝えた。
「…黄瀬と?」
怪訝な顔をして、ちらりと涼太くんを見た征くん。
私もちらりと見る。
彼は、とても嬉しそうに体育館を掃除していた。
モップをスイスイ〜っと動かしている。
そのせいか、先輩に「ちゃんとしろ!」と怒られていた。
「…ハァ。どうして黄瀬とマジバに行く事になったんだ?」
『え、っと……一緒に行こうって、言われたから…』
「深織は優しすぎる」
『う…』
腕を組んで冷めたような、真剣な瞳で見つめられる。
征くんは昔から一緒にいるけど、あまり考えてることがよく分からない。(いや、十分お前も分かんねえよ by青峰)
いい事を言われているような、説教されているような…。
そんな感覚になってしまう。
「俺もできるなら一緒に行きたかったが、これから用事があってね」
『そうなんだ…』
「…だから、アイツには気をつけろ」
『え、と…どうして?』
「それは……、っ」
『?』
僅かに頬が赤くなった征くん。
言おうとしたことを、なぜか止める。
「…深織に、手を出しそうで、心配だからだ…」
目をそらされて、言葉を終わらせるとさっきよりも赤くなった。
右手で顔の下半分を隠して、小さく言った。
『…手を、だす…って……?』
「(そういえば何も分からないんだった)」
赤司氏の不安は募る一方です。
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