迷宮の恋物語

□17.
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「空璃。起きて」


前髪を払われる感覚に目を覚ます。
目の前にはふわりと笑った琉生兄がいた。


「今日は、結婚式だから、ドレス、着るよね…?」

『まだいいよ〜……』


何時だろう。朝日が眩しくてあまり開けられない。


「…8時だよ。母さんに頼まれてるから、早く起きて。じゃないと……」


8時か。まだ大丈夫。
そう思っていた矢先。

額に柔らかな感触。


「これから色んな場所にキス、するけど…?」

『る、琉生兄!??』


ばっちりと目が覚めた。
布団の中にいたときの温かな体温とは、
また別の意味で上がった体温。


「おはよう、空璃」


琉生兄はダークホース的存在だと思った瞬間。





迷宮の恋物語【17】





白いドレスの絵麻ちゃんとは反対に
私のドレスは紺色。


「空璃ちゃんって本当に可愛いよね!」


ハーフアップにして、白い花の髪飾り。
パーティだから少しメイクをしている。


『絵麻ちゃんだって。とても綺麗』


着飾れば、女の子はとても輝くことが出来る。
モデルの仕事をしていてそう思った。


要「あ、絵麻ちゃんに空璃。ヤバすぎじゃない、それ」


要兄の声だ。
そう思って振り返る。
でも絵麻ちゃんは振り返ろうともせず、無視をしていた。


要「あれ、絵麻ちゃん無視?悲しいな〜」


『要兄。何か暗くない?大丈夫?』


一瞬驚いた顔をした要兄。
でもすぐ笑って私の頭をぽんぽんと撫でた。


要「実は父さんにあって来たんだ」

『お父さんと…?』


お父さんは私が6歳くらいのときに亡くなった。
要兄たちからは、お母さんが大好きだった優しい人だったと聞いている。


要「うん。母さんのこと、本当に愛していたからね。だから、今日の晴れ姿見て、嫉妬しないでくれって、頼んできたんだ」


要「母さんの晴れ姿に、空璃の成長した姿。そして、こんなにキレイな娘…。父さん、喜んだと思うんだよね」


そう言って、絵麻ちゃんを振り返る要兄。
絵麻ちゃんはいつの間にか要兄の方を向いていた。


要「だから、俺は、父さんに代わって言いたい。絵麻ちゃん…今日はキレイになってくれて、ありがとう」


さすが、僧侶だと思った。
普段は軽い調子で女性を口説いているイメージしかなかったから。
余計に。今日の要兄が真面目な人に思えた。

横で泣きそうになっている絵麻ちゃんの目元に、ハンカチを当てている要兄。

その横顔は寂しそうで。


要「俺、もう少しあとで行くから。みんなによろしくね」


そう言って要兄は、正面出入り口のある、
エントランスホールへ向かった。


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