迷宮の恋物語

□15.
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「空璃!おはよう!」

『おはよー乙女ちゃん』

「今日の朝Fortte出てたね!空璃の旦那(風斗)!」

『旦那じゃないよ!双子のキョーダイ!』

「でもほんと仲良いよね〜羨ましい」


彼女は小学校の頃からの友達、乙女ちゃんだ。
昔は侑介のことをかっこいい、かっこいいとはしゃいでいた子。

今ではすっかり人気アイドル、Fortteのサブリーダー、清家くんに熱烈片思い中、らしい。


『清家くんってすごい赤星くんのこと大好きだよね』

「うんうん!何かもう彼女みたいなポジションだよね〜」


それから、彼女の清家くんトークが始まった。



「空璃が僕以外の男の話…?ムカつく」


びっくりして声のしたほうを向く。
制服を着た、昴兄の誕生会の日以来の姿に心臓がいやに大きく跳ねる。


『ふうと…』

「空璃、ついてきて」


がしっと痛いくらいの力で腕を捕まれた。
教室中は風斗の登場にざわざわしていた。



『風斗!朝礼始まるから…!』

「ねえ、僕今機嫌悪いの。黙ってついてきて」

『……、』


風斗がこうなる理由は分かっていた。
乙女ちゃんとFortteのメンバーの話をしていたから、嫉妬しているんだ。

わたしは、それに気づかないほど、鈍感じゃない。

たどり着いたのは、出入りを禁止された
屋上につづく階段。
近づく人もあまりいないため、
人通りは少ない。

薄汚れたこの場所は、
少しほこりっぽかった。


『私の事、嫌になった?』

「…ならない、けど。些細なことで嫉妬してる自分が情けない」


ぎゅっと、腕から手に回っていた
風斗の手。
恥ずかしげもなく指を絡ませながら握ってきた。


『なんかいつもみたいな意地悪じゃないから、年相応にかわいいトコ見せてきたね?』

「かわいいとか…。嬉しくない」

『しってる』

「とにかくさぁ」


繋いだ手を引き寄せた風斗のせいで
傾いたからだ。

耳の近くで風斗の息遣いがきこえる。


「僕の聞こえる範囲で他の男の話なんかしないでよ。いらいらするから」

『それは主にFortteのこと?』

「それもそうだけど、兄弟もだよ。わかった?」

『覚えてたらね?』

「そこは素直に肯定するトコでしょ?」


ま、そこが空璃らしいんだけど。

ため息混じりにそう呟くのが聞こえた。


「次は容赦しないからね」

『……わがまま。無理なこと押し付けてこないでよ…』


「空璃は僕のだけ、僕は空璃のだけ。
 それだけじゃいけない?」



寂しさを孕んだ瞳に、胸が痛んだ。



『…だめだよ。私たちは血の繋がった双子で、む!』

「それ、禁句。僕は認めないから」


ぐにっと両頬を押さえられ、変な顔にさせられる。
口がひよこのようになった。


「僕はこれから一生、隣は空璃がいい」


いつもらしくない態度に驚きながらも、
そんな切ない表情をする風斗に私も切ない気持ちになった。

胸の奥が、ざわざわと嫌なもやもやをつくっていた。



*end

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