迷宮の恋物語

□12.
1ページ/3ページ



あの家族旅行を終え、家に帰った翌日のこと。

だるくて、熱くて、目眩がして。

朝、起きてからずっとこんな調子でぼーっとしていた。
梓兄が私を起こしてくれてから気づいた、体の異変。


梓「わ…っ熱いね」

「あず…にぃ…」


ひんやりとした梓兄の大きな手が額に触れ、とても気持ちいい。


梓「雅兄呼んでくるから、待っててね」

「うん…」





迷宮の恋物語【12】





あのとき。
弥を捜しに森へ行ったとき。
梓兄だってずぶ濡れだったのに、なんで風邪ひいてないんだろう。
やっぱり、大人で、男の人だったら、かかりにくくなったりするものなのかな。

熱があると、一人でいるのが何故かすごく寂しくなる感じがする。
人肌が恋しいというか、何というか。


コンコン、と静かなノック音が届くと、扉が開く音。


雅「空璃ー?風邪ひいたんだって?」

「雅兄…」


焦ったように駆け足で来てくれた雅兄にほっとする。
額に、ぴったりと雅兄の温もりのある手が乗った。


雅「…っ?空璃?」


無意識に雅兄の手に自分の手を乗せて、離れさせまいとするアピールをしていた。


「…雅兄…」

雅「どうしたの?」


安堵したような声が聞こえて、私は口の端を上げていた。
たくさん心配してくれて、嬉しくて。


雅「あとから皆様子見に来てくれるって」

「うん」


それじゃあ濡れタオル乗せるから、手どかしてもいい?というから、渋々手を離す。
すると、良い子だね、と頭を撫でてくれた。
雅兄の前だと子どものようになってしまうから不思議だ。
…まだ子供だけど。


雅「明日になったら治りそうだね」

「雅兄…」

雅「ん?」

「…ずっと…側にいてくれる…?」


驚きで目を見開いた表情を一瞬したけど、すぐに笑顔に変わる。


雅「今日は休みだから、大丈夫だよ」


ふんわりした笑顔には、いつも癒されている。


雅「今はゆっくり休むといい」


左手で私の手を握って、片方は濡れタオルに指先が触れた。
激しい安らぎに、私は目を閉じた。


雅「おやすみ」


最後に、雅兄の優しい声を聞いて。









あれからどれくらいの時間が経っただろう。
まだぼーっとする頭をゆっくり起こす。


雅「起きてて大丈夫?」

「んー、頭痛する…」

雅「それだったら安静にしてなきゃ」


私の肩を押して強制的に寝かされた。
「ね?」と大好きな笑顔で言われたら、断れないよ。
断れないって知って、雅兄はきっと笑顔を向けてるんだ。ずるい大人だ。


雅「まだ赤いね……」


熱い?そう小さな声で囁いて私の頬を滑る手。
異様に近くにある顔に心臓がバクバクする。

唇の表面に触れる雅兄の吐息が。
緊張で口がきゅっとしまる。


「ま、雅兄、」


少し開いた唇が近づく寸前で。


コンコンと小さく扉を叩く音がした。


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ