迷宮の恋物語

□10.
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梅雨が過ぎて、夏がきた。


夏といえば、海。

お母さんの別荘の、あの青い海。

とても澄んでて綺麗なんだよね。






迷宮の恋物語【10】






右「今年はどうしましょうか、例の島への旅行なんですが…」



京兄がそう切り出すと、皆一斉に携帯を開く。


私はスマートフォンでカレンダーを開き、7月の欄を見た。


それに反して絵麻ちゃんはきょとんとしている。



「私たちは、一年に一回、お母さんの所有する別荘である国内の離島に旅行に行くんだよ」

絵「所有の…別荘!?」

「あはは、驚きすぎ」

「いやいや、驚きだよ!」

弥「プライベートビーチっていうのもあってねー、すっごいんだよー!」



弥が私の手を掴みながら、絵麻ちゃんにそう付け加える。

絵麻ちゃんの表情は唖然としている。

いきなりスケールの大きい話を現実に突きつけちゃうとそうなっちゃいますよね…。



右「まあ、そういうことですので、家族旅行の日程を決めているんです。あなたのご予定はいかがでしょう?」



京兄が絵麻ちゃんに日程を聞かれ、答えている間。



弥「くーたん、このゲームして遊ぼうよー」



いつの間に持っていたのか、Weeの太鼓ゲームのカセット。



「うん、じゃあしよっか」

弥「わーい!」


椿「俺と梓は夏休み期間中はイベントだなんだって大忙しなんだよねー…。
 うーん、……どうする?梓?」

梓「そうだねー…」



2人がそれぞれの携帯を覗き込みながら、うーん、と唸る。


私も、2人がいなかったら楽しくないなぁ…。


話を聞きながら、ぷくうっと頬を膨らませ、ゲームの用意を弥とする。


大人は仕事がある。そう簡単に休みが取れないのは分かる。

実際、風斗は大人じゃないけど、仕事がある。

大人とそう変わらない。


私は本業じゃないから、仕事なんて来ない。

お母さんが頼み込んで来たら、するっきゃないけど。



弥「つっくんとあっくん、一緒に来られないの?」



そういう弥が2人を哀しそうに見つめるから、私も振り向いた。



椿「そんな顔するなよー空璃に弥」

弥「だって僕…、皆と一緒に旅行に行きたいんだもん!」



弥の言葉に同意を見せるように、私もうんうん、と頷く。



梓「大丈夫。ちゃんと仕事の調整をするから」



梓兄の言葉に弥も私も笑顔になる。なんと単純な、と自分でも思う。


すると椿兄と梓兄が交互に私たちの頭を撫でた。



右「では、こういうのはどうでしょう。
 スケジュールの取りづらい、椿と梓の休みに全員が合わせるというのは」



皆が一斉に頷いた。



梓「でも、それだと風斗が困らないかな?」

「風斗は年中無休だもんね。スケジュールも、仕事の都合でどーなっちゃうか…」



前に会ったときは、あまり疲れた感じはしなかったけどね。

いつも通りの変態で。



椿「ほんっとに空璃は風斗ばっかだよねー、妬いちゃうなー」

「ばっかじゃないよ!皆のことも考えてるよ、ちゃんと…」

椿「ほんとー?過去を振り返っても、俺を気にかけるトコ、見た事も聞いた事もないんだけどなー」

「…偶々だよ」



渇いた笑いをしてから、私は椿兄から顔を逸らした。


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