迷宮の恋物語
□08.
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リビングでごろごろDSをしていると、絵麻ちゃんが入ってきた。
(朝にそう呼ぶことにした。絵麻ちゃんも快く承諾してくれた)
「…?」
その肩には灰色に近い毛を持った、小さな可愛らしいリスがいた。
迷宮の恋物語【08】絵「あ、空璃ちゃん。何のゲームしてるの?」
「…太鼓○達人…」
リスに気を取られ、返事が遅れてしまった。
絵麻ちゃんはそんなこと気にしてないみたいで、私に駆け寄ってきた。
私の隣に座ると、リスはぴょこん、とテーブルに乗って、体を広げ、伸びをした。
「絵麻ちゃん、リス…飼ってたの?」
絵「うん。ジュリって言うんだよ。結構綺麗好きでしっかりものなんだよ」
「へぇ…」
絵「ジュリが気になるの?」
「!!へ、べ、別にそんなんじゃ…!」
ジュリが私を見つめる。
クリッとした円らな瞳。
頬はもこもことしてて可愛らしい。
尻尾には綺麗な模様が描かれていて、複雑な様だけど、ハートの形があるのが分かる。
『ちぃ、こいつはここの家の奴なのか?』
「……へ」
絵「この子ね、下から2番目の兄弟で、アイドルの朝倉風斗くんの双子の妹なんだって。すごいよね!」
これはどうしたことだろう。
なんだか今、幻聴が聞こえたような気がするよ。絵麻ちゃんの声ではない。
だとすると、やはり
コイツの声なのだろうか。
いや、でも。
動物が喋るわけ無いし、聞こえるわけもない。
しかも、絵麻ちゃんもジュリの言葉に返事をしてるのも、驚く。
いや、本当は私を紹介しただけかも…。
「絵麻ちゃん…
リスって喋るのかな?」
絵「…え?」
『もしかしてコイツ、私の言葉が分かるのか!?』
「嘘…また聞こえた…」
驚愕の色でジュリを見つめていると、ジュリもまた驚いたような表情をしているような気がして。
絵麻ちゃんもびっくり、とでもいうように目を見開いている。
絵「聞こえる…んだよね」
「うん、意外といい声の持ち主なんですね…」
『そんなことを言われたのは初めてだな』
いやいや、絵麻ちゃん以外聞こえないから当然のことじゃないかな?
『しかし…男だらけの兄弟の中にこんな幼い女がいたとはな…』
「男だけの方がよかったの?」
『そんなワケあるか!!ちぃの危険度がさらに上がるだけだ!そこに関してはお前がいるだけで緩和されるだろう』
「
んーまぁ、確かに要兄辺りは手が早そうだよね…」
『何か言ったか?』
「ううん。何でも無いよ、ジュリくん」
苦笑いでジュリを見つめれば、少し威嚇するような顔で見られた。
ジュリって♂なのかな。
しかも、「ちぃ」って呼んでる。
信頼してる上での親しみを込めた呼び方なのかな。
『今のところはちぃには何もやましいことはしていないようだが…。これから気を抜けないだろう…!』
「ジュリくん、本当にしっかり者だね。絵麻ちゃんを守る騎士(ナイト)って感じ」
『当たり前だ!』
二つ足になって胸を張る。
あぁ、可愛いなぁ…。
思わずじぃーっと見つめる。
動物大好きな私にとってとんでもない幸福の時を今過ごしている。
『ん?どうしたんだ、そんなにじろじろ見て…』
「…!」
小さなジュリが首を傾げた。
その姿が可愛すぎて、思わず息を呑む。
興奮する感情を抑えられずに、近くにあったクッションに顔を埋めて抱き締めた。
「ううん…。かわいくて…やばい」
絵「空璃ちゃんはジュリが気に入ったんだね」
「うん…。というか、動物が基本好きなんだけど…」
絵「そうなんだ。よかったね、ジュリ。空璃ちゃんに気に入ってもらえて」
『…お、おお…』
「ジュリくんは、私の事、どう思う…?」
『いい奴だと思うぞ』
ジュリに認めてもらえて、すごく嬉しく思った。
ただでさえ、ジュリは兄たちに警戒している。
「じ、じゃあ…触ってもいい…?」
『もちろん』
手を伸ばして、指でジュリの背中を撫でた。
ふさふさしてる毛並みは柔らかい。
喉元を撫でると気持ち良さそうに唸る。
そんなジュリに笑みを浮かべた。
絵「なんだか2人とも嬉しそうだね」
『空璃…と言ったか。中々いい奴だぞ、ちぃ。お前は、空璃とのみ深く付き合うべきだ!』
「ジュリくん、絵麻ちゃんには皆と一緒に関わってもらって、兄弟たちに馴染んでくれたらいいなって思ってるよ?」
『だがなぁ…』
「皆には、私が手を出さないように、ちゃんと言っておくから!」
そう言うと、ジュリは頼んだぞ、といって目を瞑った。
眠たくなったのかな。
絵「眠たくなっちゃったみたい。私、部屋に行くね」
「うん」
ジュリは寝顔も可愛いなぁ。
なんて、絵麻ちゃんの背を見送りながら、ぼーっとソファに寝転がった。
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