迷宮の恋物語
□03.
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迷宮の恋物語【03】帰宅部である私は、学校から帰ると、リビングのソファでぼーっとしていた。
特にすることは無いし、テレビも今の時間、風斗はでてないだろうし。
椿兄や梓兄の演じるアニメもたぶんやっていない。
「…んー」
傍らに置いてあったピンク色したうさぎのぬいぐるみ。
私はそれをぎゅっと抱き締めた。
これは、昔小さい頃、雅兄が作ってくれたぬいぐるみ。
薄汚れていて、少し解れているけどまだまだ可愛い。
「まさにー、頑張ってるかなー」
目を瞑ってボソッと呟いた。
その言葉は誰に届くことも無く空気に溶けて消えていった。
小児科をしている長男、雅兄は31歳。
いい加減相手を見つけて結婚でもして欲しい年齢なのだが、彼女が居ない上に、好きな人さえいないっぽい。
こんな大人が多いから、晩婚化が進んでいく理由のひとつなんだ。
ゆっくり、静かに流れる時間。
いつも騒がしくてうるさいくらいな毎日を過ごしてるから、この静けさは気持ちが悪く思えてしょうがない。
兄弟たちが憩うこの場に一人というのも案外悪くは無いけど。
――寂しがりな空璃が、珍しいね
いつか雅兄が言っていた言葉を思い出す。
――私ってそんなに寂しがりやかな?
そう問うと笑って頷いた雅兄。
私だっていつまでも子供じゃないし、
でも、今の弥の年齢のときだっただろうから、少し意地張ってたかもしれない。
そう告げられた日から数日が経ったとき、雅兄からこのうさぎのぬいぐるみを渡されたんだったっけ。
「んー、今はそんなに寂しくは…」
ないと、思う。
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