迷宮の恋物語

□05.
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「こうして空璃がここにきてくれるのも減るかもしれないな」


『何で?』


「念願の姉が出来るんだから…そっちの方にお前はひっついてくんだろ?」


『そうかもね』



用意したコーヒーを啜って空璃を見る。
頬を掻いて、どこか照れくさそうにしている。



『でも、棗兄が寂しがるだろうから、気が向いたら来てあげなくもないよ?』



両手でココアを淹れたカップを包みながら呟くように言った言葉。



「ふっ…空璃、お前…顔真っ赤」


『!!あ、赤くないし…。棗兄だって赤いよ』


「マジ?」



空璃は灰色したニット風のカーディガンを伸ばして顔を覆った。


それが照れ隠しなんだと分かるのはやっぱり長年一緒にいる兄妹だからか…。


是が非でも顔が赤い事を認めたくないようだ。


ツンデレ…。


俺には素直な態度でいてくれると思ってたけど…。


空璃がツンデレになるのは男の前だけ。


恥ずかしさからか少し意地を張るようだ。


そんなかわいい妹に赤くなられると…とても嬉しい。


でもこっちだって本音隠したっていいだろ?



「赤いのはコーヒーが熱いからだ。体が温まって赤くなってんだろ」


『ふぅん…それだったら私もココアのせいだよ』



本当にかわいい。


ツンツンしてる空璃も微笑ましいものだ。



『ココア…棗兄の作るのって美味しい…よね』


「ありがとな」



お礼を言うと、素直に照れてくれるのが嬉しい。


頭を撫でると猫みたいにいい顔してくれるのが嬉しい。


顔を近づけると、決まって。



『っちょ、棗兄、近い…っ!』


「いいじゃねーか…近いくらい…」


『よくないっ!!棗兄こうなったら椿兄とか要兄みたいになるし…』


「いっつも寸で留まらせられるし…」


『だから何で兄弟と好き好んでキスなんて…』


「でも風斗とは…してたじゃねーか?」


『っ…な、何で…!?』


「昔っから…お前ら仲良かったじゃねーか…。小さい頃なんてお前…風斗にキスされてたの見たんだからな」


『む、昔…!?』



驚いたのと同時に安堵の息をもらしたことを、俺は見逃さなかった。



「空璃…もしかして最近…」


『してない!風斗とキスなんてしてないっ…!』



チクリ、と痛んだ胸からはどす黒い何かが渦巻くようで。


全力で否定する空璃を見つめながら、あぁ、これはしたな…なんて自分に不利益なことを考えてしまう。



こんなにも近くにいるのに…


越えられない壁が昔からずっと立ちはだかって勇気を出せなかった幼少の頃の自分。


でも今はもう大人になって空璃にこうやって"男"を見せている。


双子である風斗を超えられなくても、他の奴らとは大きく差をひらけるかもしれない…。


こんな思いを昔から、俺は根強く心の底から湧き上がっていた。



「空璃…」


『ッ……!』



触れた唇から湧き上がる欲望を抑えきれずに、優しく包む空璃の唇は熱く、触れるだけのキスを繰り返した。



『…なつに…ロリコン…』


「ロリコンじゃねーよ」


『と、年下に恋心抱く人はロリコンなの…っ』



酸素を欲して、荒い息をしている空璃の顔は何とも艶かしくて。


こんな表情、中学生ができるようなもんじゃない。


けど…ドキドキする心臓がそれを現実だと思い知らせるように煩い。



「嫌…だったか?」


『、べ…別に嫌ってことは無いけど…その…やっぱり、兄妹…だし』


「俺は空璃だから好きなんだ。空璃だからキスしたいって思った」


『…///』


「なぁ…もう一度…いいだろ?」



掠れた自分の声にらしさを感じずに、


照れる空璃の顎に手を添えて、


再びキスをした。


*end
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