text

□これぞ幸。
1ページ/1ページ

もそもそと布団の中に入ってきた彼の冷たい体温が既にぬるく暖まった俺の足に触れる。一番寒いといわれているこの季節に冷たい廊下を歩き回った素足で布団に入るというのは先に寝床についている人間にとって大変迷惑な話である。いつかの教科書に載っていた恒温動物とやらだってほら、触れた部分はゆっくりと冷えていくのだ。既にもう恒温動物でも何者でもなくなっている彼に言っても理解しかねるだろうが。
「う…寒いなぁ…」
ずずと鼻をならしながらいう彼は相変わらず遠慮なく俺の足にぴったりと自分の冷えきった足を重ねている。
「当たり前だ。そんな格好で…また風邪を引いたんじゃないのか。」
長袖のぺらぺらのTシャツ一枚にジャージ。
こんな夏服の薄着に限りなく近い服を着ている彼の体は当然冷え切っている。素足でぺたぺた歩き回っている彼は驚くことに暖房さえもつけない。もっとも、根本が俺達とは違うシュウにとって変わらないのかもしれないなという考えもお決まりのように毎度頭に浮かぶが現に彼は風邪を引いているのだから、といつも考えを打ち切るのであった。
「ふふ、こうしたらあったかいね。」
暗闇にだんだんと慣れてきた俺の目に映る肩をすくめてくすくす笑う彼が、なんだかすごく愛しく感じた。ぎゅと俺の体を抱いている彼に手を回すとほらね、あったかいでしょという幸せを含んだ声が耳元で囁かれた。冷たい彼の体は何をしようとも冷たいまま。それなのに今夜は何故かとてもとてもあたたかく感じた。
「ああ。」
「おやすみ。」
ゆっくりとした口調で優しく囁いた彼の声を最後に眠りに就いた。
ああ、どうかいつまでもこのささやかな幸せが続きますように。明日もきっと彼はこんな風に冷たいがしかし俺にとって世界で一番あたたかい体でぬるい俺をあたためてくれるのだろう。
「おやすみ。シュウ」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ