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□まさか。
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ことり、人の気配なんて感じさせることのない静寂に満ちた部屋からコップをそっと置く音が聞こえた。
あれ、白竜いるの。
台所にいるであろう白竜を埃が薄く被った小さな鏡を横目にドアから覗き見る。
相変わらず不衛生なとこだね、ここ。
シュウの声など聞こえていないかのようにただかさかさと小さな紙袋を探っている白竜がそこにいた。重そうな瞼を開けてまるで疲れきった顔であった。今取り出された怪し過ぎる程丁寧に入れられているそれはシュウの存在を肯定するための、大事な大事な粉。
また、そんなものを。
常人ならばそれの存在を知ることはないであろう。ましてや服用している人間なんてほんの僅かだ。それは生きることを拒む人間がいるという事実で白竜もその中の一人という事実に繋がるのである。そんな得体の知れない粉を毎日大量に喉の奥へ押し込む白竜。酷く虚しい。
飲んじゃだめだってば。いつも言ってるでしょ。
どうしてこうも分かってくれないのか。そんな激しい思いを胸に抱く。
「シュウ…、」
独り言なのか、非常に聞き取りづらい。
なに。
真っ直ぐ白竜の目を見つめているにも関わらずやはり白竜の目は不安定に空を漂っている。
「早くお前に会いたいんだ。」
何を言っているんだ君は。ここに居るのに。
そう思った瞬間先程の埃の被った鏡に自分の姿が映ってないことに気付いた。
さっきまで白竜の肩を掴んでいた透明な手を無視した白竜は白い粉を飲み込んだ。

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