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□知る
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俺は彼のことを何もなにも知らない。彼が何故俺に柔らかい笑顔で語りかけてくるのか、それなのに彼が何故ごめんねと抱きしめてくるのか知らない。知ろうとも伸ばした手が空を切るように彼の心の奥が掴めないのだ。いつもふわふわとしている黒い少年。では、そんな彼はどうなんだろうか。俺が今どんな気持ちで彼の薄い胸に毎日顔を押し付けているのか、俺が何故涙をこぼしているのか分かっているのだろうか。
「白竜、」
どうしたの。ぽつぽつと頭上から聞こえてくる困ったような声はああ、シュゥも俺のことを分かってないのだと納得するには十分な答えであった。
「お前俺のこと一つも理解してない、な」
えぇ。という附抜けた声が返ってくる。
俺はたった今長い長い止まった時間のなかでひとつだけ、ひとつだけ知ってしまったことがある。彼の心臓はいつまでたってもずーっと動かないでいるということ。彼は所謂おばけというものなのだろう。体温を持たない少年を好きになった自分。なんとも滑稽である。
「シュウは死んでるのか。」
問うまでもない。だって今もやっぱり彼の手はこんなにも冷たくどれだけ耳を澄まそうと音はない。こうして彼が生きている証拠を掴もうとすることはやはり無意味だったのだ。
「怖いでしょう。」
ひゅと小さく息をのんだ目の前の彼は死んでいるという俺の結論なんかとっくに出ている質問とは言い難い質問の答えが返ってくる。ひどく哀しい声であった。震えているようだ。顔が見えない。
「怖くなんかないさ。」
誰が愛しい人の秘密を知って怖がるというのだろうか。
「嘘だ。」
嘘なんてつくはずないのに。静かにそう哀しい声で呟く彼はやっぱり俺のことなど分かってないのだ。
「好きだ。」
お前が望むならずっと傍にいよう。痛いほど抱きしめると申し訳程度にそっと手を回してくる。いつもなら遠慮なく抱きしめてくるくせして。
「本当?」
静かに静かに冷たい雫を落とす彼はきっと今哀しそうに笑っているだろう。
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全っっく更新せず申し訳ありません…。
これからまた復活します…!!そしてあけましておめでとう御座います^^

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