long story

□第1話
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―――――――――……



広い敷地の中はガランとしていて静かだった。



『………?』



誰もいないのかな?


花は不思議に思いながら、てくてくと歩を進める。


そしてハッと気がついた。



『……迷っちゃった』



なんだ。ここはどこだ。


…いや、真選組屯所の中なんだけど。


そうじゃなくて。



『入口……いや門は?』



屋敷に入る前にとりあえず入ってきた門まで戻ろう。うん、そうしよう。


しかーし。



『………』



歩けば歩くほどどんどん迷っている気がしてならない。


実際そうなんだろうけど。



『あー……』



花は立ち止まって大きなため息を吐いた。



『何でこうなるかなー』



自分の方向音痴は昔から、嫌になるくらい自覚済みだけど。


―――阿呆だ、自分。本当に阿呆だ。


普通いくら広いからってこういう屋敷内で迷う?


中だったらまだ分かるけど、外だよ?



『……仕方ない』



こうなりゃ自棄(やけ)だ!



『すみません、勝手に失礼しま〜す…』



小声で一応断りを入れて、ブーツを脱いで縁側に上がり込む。


まるで泥棒に来た気分、なんて思いながら花はちょうど目の前にあった襖に手をかけた。


――――トンッ…。


襖は軽い音を立てて簡単に開いた。



『っ!!!?』



花は中の座敷に寝転がる人を発見して、思わず息を呑む。


人、いたんだ……。


一度心臓を落ち着かせるため大きく深呼吸する。



『あ、あの………』



控え目に呼び掛けてみるが、何の反応も返って来ない。



『すみません………』



言いながら、花は恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れる。


……男の人だろうか。


仰向けに寝転がった体勢で、頭の下に両腕を入れ、足も組んでいる。



『………』



スースーと微かな規則正しい息の音が聞こえた。


……寝てるのかな。



『あの――』



寝転がるその人の顔を覗き込み、花は思わず目を見開いた。



「スー………」



彼は寝ていた。うん。そこまではいいんだよ。


問題は……。



『はっ!!!?』



何このアイマスク!?



『んぐっ』



叫んで慌てて口を押さえる。


しまった。大声を出しちゃった。
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