長編小説
□それは甘い……
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アルバイト先である、老舗の喫茶店――Lien(リアン)。
今日もお客さんがたくさんで、大忙しだ。
〜 それは甘い……
01.鼓動 〜
お昼時、Lienの店内にはランチメニュー目当てに常連客や会社員の人達で賑わいを見せていた。私達、従業員は注文を受けたり配膳したり片付けたりで大忙し。
店内がやっと落ち着いたのは午後の15時過ぎ。
「ひな、昼飯食っていーぞ」
私の名前を呼びながら厨房から出てきた店長。店長はカウンターの端に1つのお皿を置いた。お皿を見れば私の大好きなオムライス。
ここのオムライスは卵がフワフワでトロットロ。普通、卵の上に掛かっているのはデミグラスソースだが!私にはトマトソース。トマトの酸味が調度いいのよ。ちなみにトマトソースも手作り。
ありがとうございます!とお礼を言って席に座り、スプーン片手にいただきます!をしようとしたらあるモノに気付いて固まってしまう。
そんな私をカウンター越しに見ている店長が笑うのが視野に入った。
「どーよ、うまく書けたろ?」
「…………ありえないくらいにうまいですけど正直言って引きます」
「ははっひっでーなぁ」
言う程気にもしていなそうに笑って厨房へと戻る店長。
店長が言う、うまく書けたってのはオムライスの上の、器用に書かれたトマトソース文字の事。
何を書いたんだって?
「“スキ“って直球過ぎでしょ……」
店長が書いた“スキ”に意味はない。からかわれただけだ。絶対にそう。
私は溜息を吐き出し、スプーンの裏側でソース文字をオムライスに引き延ばした。
「はーい、ひなちゃん。店主様特性コンソメスープですよー」
「ん!」
コトリ、と軽い音を立てて目の前に置かれたマグカップ。美味しそうなコンソメの匂いに嬉しさから笑みが零れてしまう。
「悟さん、ありがとうございます!」
「いいよー」
店主――悟(さとる)さんにお礼を言いって暖かいマグカップを手に取り、舌が火傷しないように気を付けて一口飲む。
暖かいスープが喉を通って胃に落ちると、ジンワリと躰の中から暖まってくるのが解る。
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