長編小説

□私の隣、君の隣
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私には弟みたいな幼馴染みがいる。





〜 第一話 〜





朝の八時過ぎ頃。バスケ部の朝練が終わり、マネージャー室から出て鍵を閉めた。それから体育教官室に鍵を戻して部室に行き、着替えてから教室に向かう。これが私の朝の日課――いや、もう一つ日課がある。


「はーるかーっ」


部室がある棟から離れ、校舎と繋ぐ渡り廊下を歩いていると名前を呼ばれた。

美華(はるか)、とは私の名前。みかとは読まない。よく間違われるんだよね。そんな私の名前を間延びしながら呼ぶのは幼馴染みのコイツ。


「律、今日も早いね」
「ハルが起こしてくれたからね、感謝かんしゃー」


のしっと後ろから首に腕を巻き付けて体重を掛けてくる、木瀬律(きせりつ)。

律とは家が隣近所で、保育園から小中高と学校が一緒。しかもバスケ部所属って所からして一緒とは、幼馴染みの域を越えての腐れ縁。

律は春風邪らしく、朝練を休んでの登校。放っておくといつまでも寝ているから、登校時間に間に合うよう電話を入れていた。しかも完璧に目が覚めるよう、五分置きに。


「熱は下がったの?」
「何とか。心配した?」
「まぁね」


そう答えてやれば、猫のように切れ長の瞼を細めて嬉しげに笑う。喉元を撫でたらゴロゴロと喉を鳴らしそうだ。

背中に律を張り付かせたまま付き添いで下駄箱に向うと律はスルリと私の首から腕を離した。


「げっ」


下駄箱から上履きを取り出している律を待っていれば、律の低く唸るような声。視線を向けると律の手には数枚のカラフルな封筒。見るからにラブレター。

律は怪訝な顔をさせて昇降口にあるゴミ箱へと封筒を捨てようとする。その姿に驚いて目を見張った。


「ちょ、律!」
「……んだよ」


封筒を掴む律の腕を掴んで止めれば、苛立った表情で見詰められる。


「何で捨てるの?」
「何で止めるの?」


捨てる事が当たり前のように言う律に溜息が出た。私の態度にギュッと唇を引き締める律。

これだからいつまでも彼女が出来ないんだよ、律。


「いい、律」
「何も良くない」


こんの、バカタレが。






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