恋というより友情で

□いじめなの?
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「……へ?」



間を置いて、声を発する。



「虐められてなんていませんよ??」



何がどうなって、そういう質問がでてきたんだろう。
ますますよく分からなくなる。



「ほな、こうしよう」



白石先輩が自分自身を指差して、右隣の謙也先輩、千歳先輩と指していく。



「俺から順に、反時計回りで遊ちゃんにしていくから、それに答えや」

「はいっ」



よく分かんないけど、きっとなるようになるだろう。
ウチはたたずまいを正して椅子に座り直した。



「ワイも質問するん?」

「金ちゃんは、遊ちゃんと一緒に答える側や。
気付いたことあったら教えたって?」

「了解や!」



金太郎君は、わくわくとウチの隣に移動してきて、座り直した。
そして、質問が始まった。



「質問その1。
靴箱に、上履き以外のなんかが入っとったことあらへんか?」

「……!」

「あるんやな!?」

「何が入っとったんや!」



あまりの剣幕に、答えるのを一瞬ためらってしまった。



「え、と、て、手紙ですっ!」



恥ずかしくなって俯く。
瞬間、部室に蔓延していた緊張感が一気に霧散するのが分かった。



「あら〜、遊ちゃんったら、ラブレターなんてもらったん?
うらやましいわぁ」

「小春、浮気か!」

「ラブレターねぇ」

「え?
あれラブレターだったん?」



皆が冷やかす空気になっている中、金太郎君だけがキョトンとなって発言した。



「新聞紙やチラシの切り抜きで作られたやつやろ?」

「うん、そうだけど、パッと見告白ってカンジだったよ?」



朝練帰りだったから、金太郎君も一緒にいて、たまたま見られちゃったんだ。



「パッと見ってどういうことなん?」

「それが……」



謙也さんの質問に、チラッと金太郎君を見る。
金太郎君は気まずそうに口を開いた。



「わいと取り合いなって」

「破けた挙げ句に水没しまして」



話したいことがあるので、放課後----と書いてあったのしか読んでない。
そう言って、金太郎君をじとっと見た。



「やって、あんな手紙、マンガとかでは脅迫文とかに使われとるもん!遊がなんかに巻き込まれとるんか思ったんや!」

「そんなこと言って昨日も一昨日も手紙ダメにしてくれたよね!?」

「遊が素直に貸してくれへんねんもん」

「ウチの手紙なんだから普通読んじゃダメだよ!」



そうそう。
だから今日こそは家に帰ってから読もうと思って……。
気付いた。



「そういえば、今日の手紙なら、まだカバンに入れたままでした」



部室の外に置いてあった鞄から、全部で六枚の封筒を取り出し、部室に戻った。
ちなみに全部未開封。



「いつもは一通だったんですけど、今日はなんか多かったんですよ」



机の上に広げる。
さすがに全部がラブレターだなんて思ってはいないけど。
しかも、一つは異様に膨らんでいて、押してみるとプニプニする。



「なんだろう、これ……」



ひんやりしていて、地味に重みがある。
今なら、開けても金太郎君邪魔したりなんかしないよね。
そんな安心感とともに、封を切った。



「……!」



中身を認識してすぐに、驚いて机にそれを投げ出した。



「遊!?」



なんやなんやと集まる部員。
その封筒からは、投げ出された衝撃で、中身が少しはみ出ていた。



「うぇ……」

「性質悪すぎるばい」



ユウジ先輩が、指先でそれを摘まんで引きずり出す。
手のひらサイズのカエル。
死んでもなお、その皮膚はみずみずしく、テカっていた。
そして、新たに発見する。
白い腹の部分に、『呪』と彫られているのを。



「酷い……」

「なんちゅうことをしてはるんや」



全員が絶句する。
あの金太郎君までもが、だ。



「ワイ、この字知っとるで……。
マンガで読んだ」



ウチの制服の裾を掴んで、ユウジ先輩の指先をじっと見ていた。



「遊、他のも見るで」



ウチが返事をするよりも早く、先輩達が、次々と残りの手紙を開けていった。



『消えろ』

『マネージャー辞めろ』

『邪魔』

『調子のんな!』

『ぶりッ子。可愛くねーんだよ』



全て雑誌や新聞の切り抜きで作られていた。



「なに……、これ……っ」

「遊、落ち着きやっ!」



震える体を抑えながら、俯く。
金太郎君が心配そうに背中をさすってくれているが、残念ながら震えは止まってくれなかった。



「なんで……!?」



気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!
胃の中から、何かが込み上げてきて、慌てて口を抑える。
ヤバい!



「ごめんなさいっ!」



ダッシュで部室を飛び出し、近くのトイレに駆け込んだ。



「ハァっ……、ハァ…」



吐けるだけ吐き出し、息を調える。
口の中が気持ち悪い苦さでいっぱいだった。



「なん…で?」



ウチに脅迫文なんて?
悪寒が走る。



『人殺し』



どっからその単語が出てきたの!?
恐怖とはまた別の、何か違う感情が、ウチを怖がらせていた。
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