恋というより友情で

□古武術のお兄さん
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□実力勝負



「おぉ、君が遊君か」

「はじめまして!今日はお世話になります」



古めかしい大きな家屋、なんとも趣深い家から出てきたのは、穏やかな雰囲気のおじさん。
がっしりとした体格から、きっと武術も強いんだろうなと思いつつ遊はにっこりと笑った。
持ってきた手土産をしっかり渡し、かしこまっておじさんを見ていた。



「ハハハ、そんな固くならなくても大丈夫だ。さぁ、ついておいで」

「はいっ!!」



道場の中へと案内され、真っ先に連れられたのは、たくさんの門下生達が爽やかな汗を流しながら頑張っている修行場。
組み手をしている人もいれば、型を極めようと練習している人もいる。



「おぉ……!」



なんか、この雰囲気めっちゃ久しぶり!
うずうずするー!!
今にも練習に飛びこまんとしている遊を余所に、おじさんは一人の生徒に近づいて、何か声をかけていた。
遊がその様子を不思議そうに見つめていると、その少年が視線をこちらへと向けた。

おっ。

流れで軽く会釈をしたら、会釈をしてくれた。
そのまま、おじさんがその少年を連れてやってきた。



「日吉若、俺の息子だ」

「どうも」

「こんにちわ!」



ってことは、この道場の跡取りとかそんな感じかな?
顔をよく見ようと身を乗り出すと、おじさんが遊を手で示しながら紹介してくれた。



「それでこっちは……」

「去年の古武術大会……」



言葉が遮られた。



「にょ?」

「優勝者の妹でしたっけ?なんで本人来てないんですか」



冷たい視線を投げ掛けてきた。
これ歓迎されてないじゃないですか!!
思わず地面を蹴りそうになるのをなんとかこらえた。

確かに、おにいは大会優勝者だし、強い。
それに対して遊は女だし、大会にすら出ていない。

名前が通っていると言っても、おとうとおにいのおかげで、遊自身の力ではない。
なめられるのも慣れたことなので、遊は笑顔を崩さずに答えた。



「おにいは、今頃彼女さんとデートですよ。夜になったら来るって言ってました」

「なんですか、それ」

「おにい、遠距離恋愛ですから仕方ないです」

「はぁ?」



あはは、と声を出して笑う。
あの人に常識というものが通じるならウチだって苦労しません。
だから、こうしてウチまでここに来るのに巻き込まれてるんじゃないですか。


まぁ、道場なんて引っ越してから行ってなかったからこれて嬉しいんですけどね。
手合わせとかできたらいいな―。そんな軽い気持ちで来たんですけど。



「その代わりと言ってはなんですけど、おにいが来るまでの間はウチが手合わせしますよ!!おにいに頼まれましたし!」

「アンタが?」



あからさまに見下された表情を向けられる。



「怪我しますよ?」

「こら、若!!」



おじさんが若さんをたしなめてくれるが、その瞳が不安そうに揺れるのを見て、ウチは小さくため息をついた。
あのですねぇ。



「怪我するのはそっちかもですよ?」

「は?」



まじめな顔で、ウチは肩にかけていた鞄を地面に置き、構えた。
バカにされて平然と流していられる程、ウチの人間はできてはいません!



「言って置きますけど、ウチ、去年はサッカーの大会と被って参加出来なかっただけですから」



ペロリと唇を湿らせる。
小さい頃から、本場で習ってきたんだ。
古武術の世界で名が通ってるあの人の一番弟子だし、ね。



「それに、稽古を頼まれたのはなにもおにいだけじゃないですから」

「へぇ、おもしろいこと言うな。怪我しても知らねぇぞ」



若さんも構えをとった。



「遊ちゃん!?おい、若」



慌てふためくおじさんは無視。
さて、手合わせと行きましょうか。
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