恋というより友情で

□マネージャーに就任です
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□手紙をつきつける



ざわざわと騒がしい廊下を縫うようにして歩く。
すれ違う人すれ違う人が振り返って注目してきている気がするのはきっと気のせいではないハズだ。

ぐっと拳を握って、とにかく目的地へと足を急かせる。
ただでさえ身長の高い人達や、垢抜けたオシャレな人達ばかりで田舎者でちんけなウチはさぞや浮いてることだろう。というか、絶対そうだよね。
しかもウチ、学校の制服着てないし。黄色いワンピースタイプの制服とは似ても似つかないYシャツに黒いスカート。制服まだ届いてないんだよ〜。あーもう、まるで動物園にいる気分みたい!



「ここだ」



三年二組。
表札を見上げて、一つの教室の前で足を止める。



「あの、すみません」

「ん、俺?」

「はい。あの、忍足謙也先輩呼んでもらえませんか?」

「ええよ。ちょい待ってな」

「ありがとうございます」



お礼を言えば、その人はニコッと爽やかに笑って、すぐに謙也さんを呼んでくれた。



「謙也〜。かっわいいお客さんやで〜」

「へ!?俺!?」



声だけでピンとくる。
散々昨日人を追いかけ回してくれたあの人だ。
そんなことを考えていると、いつの間にか謙也さんが目の前に現れていた。行動、早っ!!?



「お客さんってだr……」



謙也さんの視線がウチに止まった途端、見るからに謙也さんの目がまん丸くなる。ウチはにっこりととっておきの笑顔を送ってやった。



「ほな、俺行くわ」

「はいっ、ありがとうございましたっ!」



一言告げて、教室の中へ入っていったその人を見送って、ウチは笑顔のまま謙也さんの手を引いて廊下に連れ出す。
その間に謙也さんは回復したようで、随分訝しげにウチを見てきた。



「どないしたんや、こないなとこまで来て」

「謙也先輩に話がありまして」



ウチは手にしていた封筒を目の前に翳す。



「これ、どうゆうことか説明してくれませんか?」

「なんやこれ?」



謙也さんが首を傾げながら封筒を手に取る。
え?
予想外の反応に、ウチは困惑した。



「何言ってるんですか。絶対見覚えあるでしょう?」

「見覚えもなにも、こんなもん知らんがな」



え!?え!?
謙也さんを見つめてみるけれど、その目は本気だ。
嘘をついてるようにはみえないけど、でも……!!



「だ、だってこれには忍足さんの名前がーー「よぉ知っとるで!」うわっ!?」

「白石!?」



突然人の会話に割り込んできたその人を見上げようとしてーー右腕の包帯に視線がいった。



「あの、腕、大丈夫ですか?」

「ん?あぁ、これな?怪我やないから大丈夫やで!」



じゃあ、なんで包帯なんてしているんだろう。
困惑した視線を投げかければ、包帯お兄さんはにこやかに笑いながら、ウチの頭をポンポンと撫で出した。



「自分が遊ちゃんやな!なん?手紙のこと考えてくれたん??」



その言葉を聞いて確信した。
この人か、このふざけた手紙の差出人は!!
頭の上の腕を払いのけ、包帯さんを睨みつけた。



「考えるもなにも、脅しじゃないですかこれっ!!」



渾身の叫びに、近くにいた人達の視線が集まるのを感じる。
だけど、ウチはそれどころじゃないのだ。



「確かに、半分は脅しやったな」

「半分どころじゃなかったですよ!?」

「まぁええやん」

「よくないですっ!!」



ウチの叫びをのらりくらりと流す包帯さん。
だぁああ!
話が進まないっ!



「まぁまぁ、二人とも少し落ち着きや、な?」

「俺はいつでも落ち着いとるで?」

「落ち着いてなんかられないですよ!!先輩はこれみてから言ってください!!」



今にも包帯さんにとびかからんとした気配を読み取ったのか、謙也さんが仲裁に入ってきた。
くっ、勘がいいな。
仕方がないので、八つ当たりとして謙也さんにバシッと手紙を叩きつける。



「なになに……。花城 遊殿。先方を四天宝寺男子テニス部マネージャーに任命する。へぇ、マネージャー……って、ぇえええええ!?!?」



そこ驚くところ!?
ウチは腰に手をあてて、主張した。



「問題はそのあとです!二枚目!」

「二枚目もあったんか」

「ありますよ!」



パサッ
紙の擦れる音が鳴る。



「2週間診察に来んかった罰として、薬、シロップから粉薬に替えるで。忍足……って、親父かいな!ちゅーか、その歳で粉薬苦手ってどないやねん!!」

「苦いんだもん、仕方ないじゃないですかっ!!」



こんなことになりそうだったから、病院なんて行きたくなかったのに……!!
昨日のことを思い出して目頭が熱くなる。



「昨日だって気が付いたら病院だし、注射はされてるし、苦い薬は持たされるし、おじいに叱られたし……!!」

「いや、俺かてあの後白石にこってり叱られたんやからな!?辛かったんはお前だけやないで!!」

「謙也さんのことなんてどうでもいいですよ!!」

「よかないわっ!!」



ぷいっとそっぽを向けば、謙也さんはため息をついて苦笑を浮かべた。



「まぁ、なんにせよ俺を責めるんはお門違いやったってことやで」

「でも、この手紙に忍足先生って書いてあります!」

「あぁ、それはただ謙也のおとんからの伝言で、本題は一枚目やで。あと手紙書いたんは、オサムちゃんや」



誰だオサムちゃんって。
虚をつかれて、ウチは包帯さんを茫然と見つめる。



「え!?なんでオサムちゃんがでしゃばってきとんの!?」

「昨日自分と金ちゃん、部活来なかったやろ?そん時に決めたんや」

「えー!?なんやそれ!!俺全然聞いてへんで!!」

「そりゃあ今初めて言ったもんな」



いつの間にか、目の前のお二人さんは二人だけの世界で盛り上がってくれちゃって、ウチはおいてけぼりです。
え、なにをどうしろって?
状況が全然把握できてないんですけど。



「そういうわけやから、ほな、いっちょよろしゅう頼むわ!」



パシンという音に意識が引き戻されれば、目の前で包帯さんが両手を合わせ頭を下げていた。
いやいやいや、なにもよろしゅう頼まれませんから!!



「いやいやいや、まず俺が納得できてへんからな?」

「そうそう!ウチだって全然納得してないしーーって、あれ??」



ふと、廊下に居た人たちがどんどん自分の教室に戻り出すのが目に付いた。
嫌な予感がして、胸元から携帯を取り出して時間を確認する。



「わっ!あと2分しかないじゃんっ!!」



スカートを翻して、二人の前を立ち去ろうとすると、後ろからなにかに引っ張られた。
ちょ、ま、ウチ遅刻する!!
振り返ればウチの服の裾を掴む包帯さん。



「先輩離してください!ウチこれから二階上にまで走らなきゃいけないんです!!」



あーもう!完璧しくった!
弁当の時間や放課後は捕まえにくいかもと思ってわざわざ休み時間に来たのに、全然時間足りない!!
思いっきり顔をしかめる。



「続きは休み時間な。金ちゃんと一緒に中庭来てや」

「へ?金ちゃん?って、金太郎??」

「せや」

「わかりましたっ!」



なにを考えているのかよくわかんないその笑みに向かって、ウチは力強く頷く。
言うが早いか、包帯さんはようやく手を離してくれた。



「遊、あと一分やで」

「くっ!」



謙也さんの言葉に、ウチは一礼して、わき目もふらずに走り出した。



「あ、そうそう!遊ちゃん、俺は白石蔵之助や!よろしゅうなー!」



(状況が状況なだけに、返事をする余裕なんてありません)
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