恋というより友情で

□大阪上陸うちなーガール!
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□病室を抜け出して



「ここは......」


 ぼんやりと一点を見続けていると、段々と視界が開け、それとともに脳内も覚醒してきた。


「ん、しょ、っと」


 重たい体をゆっくりと持ち上げて、あたりを見回せば、視界に映るは白、白、白。白いシーツに白い天井、白い壁、白いテーブル。とにかく、どこもかしこも真っ白だ。
唯一白くないものといえば、己の腕につながっているチューブとピンク色をした点滴の色、それくらいじゃないだろうか。あぁ、ウチの着ている服も辛うじて淡い青色くらいはしているかな?よく見なきゃ全く気付けないけれど。


「よし」


 瞳を閉じて、もう一度開き直してみる。
 景色に変化は―――――なし、と。

 確信した。ここは、病院だ。
 そう意識した瞬間のウチの行動は早かった。腕に繋がるチューブを力任せに引き千切れば、ブチブチブチッと嫌な音が静かな病室に響き渡った。


「ったぁ.......!!」


 どんだけ深く刺していたというのだろう。腕全体が痺れるような痛みに包まれ、しばらく1人身悶えする羽目になってしまった。でも、こんなことで挫けるウチではないのである!!


「うっしっ!」


 目尻に浮かんだ涙を拭って、勢いよくベッドを飛び降りる。それからそっと扉へ近づき、耳を当ててみた。壁の向こうから音はしない。それでも、念には念をということで、扉を少しだけ開いて廊下の様子を確認してみたものの、誰もいない。


「よしっ!」


 思いっきり扉を押し開けて、部屋を飛び出した。
 ある程度自分の部屋から距離を取れていればもう安全。最後まで気を抜いてはいけないけれど、今更ここにきて特に慌てる必要もないので、敢えてのんびりと歩く。

 ふふふー。これなら誰かと会ったって脱走中だなんて思わないでしょ!

 すれ違う人は無きにしも非ずではあったものの、誰に咎められることなく、すんなり入り口まで辿り着けてしまった。


「呆気な!!」


外に出て、1人愕然とする。
花城 遊生まれて約13年。こんな簡単な脱走を経験したことがあっただろうか!!あまりに楽勝過ぎて、なにか罠があるのではないかと疑ってしまうレベルである。いや、さすがにそれはないだろうけどさ。


「脱走できたし、個人的に文句はないけど......」


 でも、こんなにガードが緩いなんて病院としてどうなんだろう。なんて無粋な心配をしてみる。だって、患者さんって、下手したら自殺とかしたりする人も中にはいるわけですよ。そういうのを未然に防ぐために、病院側は普段人気のない場所をつくらないようにしているんだって、昔誰かから聞いたのだけど――――ドラマだったかな?いや、脱走を繰り返すウチをいつも叱っていたあのイケメン看護士さんだったっけ?うーん。よく覚えてないなぁ。
 とりあえず、少なくともこれだけは確実に言えます。

こんなに警備薄くて、この病院大丈夫なの?


「忍足医院,,,,,,??」


 聞いたことない名前。小さく首を傾げる。
 いつもウチがお世話になっている病院ではないみたい。だからといって、ウチの近所にこんな珍しい名前の病院があった記憶もない。
 ということはつまり―――


「迷子になっちゃうフラグ、かな?」


 心なしか、いつもよりも冷たい風が肌を撫でながら傍を通り抜けていくのでした。



(もちろん、その場に留まるという選択肢はありません。)
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