第参幕

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「おい、ジロー、起きろって。もう放課後だぞ」

「んー......」



肩を激しく揺すられ、しぶしぶ目を覚ます。
目の前の宍戸はテニスバックを背負っていて、既に帰る準備万端の状態だった。



「俺まだ帰る準備してないC」



くぐもった声で唸るように返せば、宍戸はやっぱりなとでも言うようにため息をつく。
なんか酷い。



「どうせそんなことだろうと思って、俺がやっといたよ」



「ほらよ」と机の上に投げ出された鞄は確かに俺のもので、机に散乱していただろうプリント達も綺麗に片付けられていた。



「いつも思うんだけど、宍戸って毎日俺の世話して疲れなE?」

「そう思うんならもっとしっかりしてくれ、頼むから」

「うん、きっと無理!」

「即答かよ!?」

「即答だC〜」



ニコニコと笑顔を返せば、宍戸は額を抑えて再びため息をついた。
だって、そんなことできるんならとっくの昔からやっているっていう話だCー。



「分かってはいたけど、少しは考えろよなー」

「Aー、うーん?やっぱ無理〜?」

「なんで疑問系なんだよっ!」



宍戸のツッコミはスルーしつつ、自分の荷物を背負って立ち上がる。



「だって、幼稚舎からずぅーっとこんなんだもん。そんな簡単に治せるもんじゃないC」

「そしてその尻拭いをする習慣がついてしまった自分を呪いたい」

「あはは、どんまE!」



宍戸が、高校生になればクラスが離れて、長かった俺の世話から解放されると楽しみにしていたのをなまじ知っている分心苦しかったりするんだけど、まあなってしまったものは仕方ない。
それを俺が言う資格なんてものはないけど。



「にしても、ここまでお前と同じクラスが続くとか、なにかしらの陰謀を感じるぜ」

「あー、なんか、去年の担任が頼んだみたいだよー?本当なら、ここに結衣ちゃんも来て、宍戸はお世話大使に任命される予定だったんだって!」

「......誰情報?」

「跡部情報ー!!」



がっくんと宍戸の運が悪いという話をしていると、たまたま教えてくれたんだよね!
そう教えてやれば、宍戸の顔が面白いくらいに歪んでいった。



「そういや、結衣ちゃん元気かなー」



毎日メールも電話もしているけれど。
それでも、ふと思い出したついでに呟いてみたら、思いっきりしかめっ面をしていた宍戸の顔がキョトンとした顔に一転した。



「え、お前line見てねーの?」

「??」

「ほら、GW前に、あいつグループラインに写真たくさん送ってきてーー」



そこまで言って、宍戸は苦笑した。



「そういやお前、俺らのグループ承認してなかったな。ついでにテニス部のも」

「なにそれ?そんなのあるの?」

「あるある。スマホ貸してみ」



はい、と素直に手渡して、宍戸の手元を覗きこむ。
宍戸は手際よく、いくつかのボタンを押して、俺にスマホを返してきた。



「お前、携帯スマホに代えて随分経つだろ。なんで使い方覚えてねーんだよ」

「Aー、だって俺、lineで結衣ちゃんと通話するためだけに買い換えたようなもんだC、正直他の機能とかどうでもEーんだよねー」

「ホントお前、ブレねーな」



Eーじゃないか。
それだけ結衣ちゃんが大好きだということで。



「それで、写真って?」

「ほら、このグループのアルバムに貼られてる」



そう言って宍戸が開いてくれたのは、俺と宍戸とがっくん、そして結衣の四人がメンバーになっているグループで、その一番最新のアルバムというのが、『立海』というタイトルで載せられているものだった。



「GW前に球技大会があったんだと。んで、その時の写真だってさ」



全部で15枚。
俺は、それを一枚一枚読み込んで開いていく。



「なんでもあいつ、テニスの種目にでて四位になったらしいぜ?自慢してたけど、ぜってー、丸井のおかげだろ」



なるほど。
確かに、どの写真も結衣ちゃんはテニスラケットを持っていて、そのいくつかはボールを打ち返しているものだったり、ガッツポーズをしていたり、丸井くんとハイタッチしていたり、昔に比べれば、ちゃんとテニスができているようだった。



「きっと結衣ちゃんも一生懸命頑張ったんだと思うよ」

「まぁ、そうだろうな」



宍戸が苦笑しながら、写真を指す。



「ほら、あいつ全身絆創膏だらけだし。あと……ほらこれこれ。丸井と仁王も絆創膏だろ?幸村は無傷みたいだけどーー、まぁ幸村だし」



スライドさせて止めたのは、四人が笑顔でピースしている写真。
皆が皆楽しそうに笑っていて、見るからにこの球技大会を楽しんでいるんだってことが伝わってくる。



「本当、すっげぇ楽しそう......」



満面の笑顔の結衣ちゃん。
晴れ晴れしくって、楽しそうで、可愛くって、朗らかで。
俺の大好きな笑顔が、そこにある。



「だよなー。さすが結衣っつーか。あいつ馴染むの早いよなー」

「結衣ちゃんだもん。そりゃあ、ね」



俺ははにかんで、スマホの電源を落とした。
かつてはずっと側にあった笑顔が、すぐそこにあったあの暖かな存在が、遠くに行ってしまった。
そう強く再確認させられてしまった気がした。



「ジロー?」

「宍戸、俺眠Eー」

「はぁ!?お前、今日一日中寝てただろーが!!いい加減起きろ!!そして動け!!さすがに1年がサボるのは印象悪いって何回言えば分かるんだよ!」



だってやる気萎えちゃったんだもん。
とは言えないかなー。

俺は小さく溜息をつく。




(あの子の居場所は、もうここにはないのかな?)
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