お菓子な君と
□一生私の試食係
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○一生私の試食係
(おれいはあなたの笑顔ひとつとおいしいの一言を)
「今日はなーにかにゃ!?」
「プリンだよーん♪」
放課後、部活帰りに家庭科室に寄るのが日課になった。
舞夏はいつも一番最後まで残って、いろいろなものを作っている。
それは、その日の夕飯だったり、おやつだったり。時には次の日の朝食だとか、おやつだとかだったりするのです。
彼女は笑顔で座って待っていた俺の前にお皿を置いた。
「昨日言ってた新作メニュー?」
「そうっ!感想くれると嬉しいなっ」
パクりと一口。
彼女が感想を求めてくるときは決まって実験。
彼女はレシピ通りに料理を作らない。
本人曰くオリジナリティーを求めているらしい。
「野菜ジュースを混ぜてみたんだけど、どう?私的には結構アリだと思ってるんだけど」
「普通のプリンの味だと思う。でも、ちょっと味が濃いかも」
野菜の味を消すためか、卵と砂糖を使いすぎだと思う。
プリンの味がしつこく舌の上に残る。
「そっかぁ。じゃあ、失敗かな」
「おいしいとは思うけど、好みが別れそう」
「おっけー。次調整してみるねっ」
俺の言葉をノートに書き付けて、彼女は向かい側に座った。
「じゃあ、今度は野菜ジュースを直に作るとこからやってみようかな。市販のやつ、味濃いんだよね」
真剣な顔でメニューを考える彼女の姿を見つめながら、俺はスプーンを口へと運ぶ。
彼女の作る料理は大きく分けて3つ。
○彼女好みの甘さ重視のお菓子
○万人受けする斬新さ重視のオリジナルスイーツ
○レシピ通りの美味しい料理
最初の頃は完成品というか、彼女自身が認めたものしかくれなかったけれど、最近では試作品もたまにまぜてきて、俺の意見を聞いてくれるようになった。
「それいいと思うよ。あと、もう少し甘くしてもいいかも。卵の味が強いから」
「はーい」
彼女がノートを閉じるのと、俺が食べ終わるのはほぼ同時。
彼女は空っぽの皿をみて嬉しそうに顔を綻ばせた。
「おいしかったです。ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
そんな会話も恒例行事。
そして彼女はいつも嬉しそうに皿を片付け出すんだ。
彼女のそんな姿を見るのが幸せで、俺は片付けが終わるまで、椅子に座って眺めてる。
手伝いは、前に手伝おうとしたとき、断られたからおとなしく座って待ってるの。
「よしっ、お待たせっ!帰ろうかっ」
「お疲れさま」
そして俺達は二人で家庭科室を後にする。
横を歩く彼女からはいつもなにかしら甘い香り。
今日はきっと生クリーム。
「菊丸くん、私、絶対お店だすからね」
「そしたら絶対俺が一番のお客様だって約束だよん♪」
「もちろんだよっ」
彼女の言葉、挙動、一つ一つがクセになる。
まるで彼女が作るお菓子のように、彼女は俺を惹き付ける。
「俺、舞夏の作るお菓子大好きだし」
もちろん、舞夏のことだって。
俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女は笑顔を浮かべて、こう言うんだ。
「私も菊丸くんに食べてもらえて幸せだよっ」
友達以上恋人未満
お客様以上同僚未満
(お菓子に夢中な彼女は、同じくらい彼に夢中です)
(お互いに想いは伝えないけれど)