短編
□可愛くて【財前光】
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「ざーいぜん先輩っ!」
「っ!」
背後からの襲撃に、俺は身を翻して避けた。
「ぅきゃっ!?っと、っと、っとおっ!?」
勢い余ったその体はグラグラと揺れて、俺の少し手前で踏みとどまる。
「ちっ、コケんかったか」
「コケて欲しかったんですか!?」
ひどー!
頬を膨らませて主張するソイツの頭を撫でてやれば、次第に表情が和らいでくる。
彼女はハニカミながらも笑みを溢した。
「相変わらず財前先輩らしいですけど!」
チョロい。
まぁ、いつものことやけど。
ニコニコするソイツが調子にのるのも嫌やったから、あえて頭の上に置いていた手は移動させてデコピンを食らわせた。
あ、強すぎた。
彼女の頭が勢いつけて後ろに吹っ飛ぶ。
「まぁ、ええか」
「よくないわっ!!」
額を押さえながら涙目で睨む彼女。
俺は言葉につまった。
もともと身長差があるのに、そんなかがんで上目遣い、その上涙目なんて高等技術どこで身に付けたんやコイツは。
どうせコイツのことやし、無意識やろうけど。
動揺する心を隠すかのように俺は無表情を装って彼女の傍らを通りすぎようとした。
「あぁっ、って、ちょっと!!」
それなのに、こいつはなんなんだ。
パタパタと上履きを鳴らしながら慌てて後を追って来た。
その時にはもう涙も引っ込んでいるようで、驚いた顔。
クルクルと目まぐるしく変化する彼女の表情は忙しない。
「財前先輩今から食堂ですか?だったら一緒させてもらおうと思って!」
今度は笑顔。
大輪の花が弾け咲いたような笑顔を浮かべるのは彼女の専売特許だ。
俺は目を細めた。
「財前先輩?」
不思議そうに小首を傾げる彼女の額を再び弾いた。
こぎみのいい音が響いた。
「ったぁっ!?なんなんですかいったい全体!!ウチは叩くもんじゃないってはやっ!?歩くのはやっ!?」
要するに、彼女が可愛くて、つい虐めたくなってしまう。
なんて、そんなとこ。
あー、俺かっこ悪。
そんなことを思ってもやめられない。
しかも、本人何されても無邪気に戯れてくるから、俺のちょっとした悪気も霧散してしまうのだから、たちが悪い。
でも、まぁ、俺が素直になれないのは今に始まったことではないし、それでも、こうして好意を向けられれば嬉しいもので。
(背後に迫る足音に、にやける口元をこっそり隠した)