本棚
□四月一日
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「やーくっもくん!」
遊びに来たよーなんて呑気にドアを開け、入ってきたのはいつものトラブルメーカー、小沢晴香だった。
「だからいつも言っているだろう、ここは、遊ぶ場所ではない」
帰れ、と淡々と彼ー斉藤八雲は言った。
いつもの会話だが、毎回晴香は面白いぐらい飽きもせず怒る。
「もー!何でそんなこと言うのかなぁ‼」
全く、ちょっとぐらい「来てくれてありがとう」とか言ってくれても…とぶつぶついいはじめた晴香をさらりと無視することに決めた八雲は、自分の手にある本の続きを読むことにした
来てくれるのは嬉しい、だか今は
正直、来てほしくなかった…というのが本音だった。
なんせ最近晴香への想いを自覚したばかりなのだ。
晴香と一緒に居れるのは嬉しいが、同時に照れもあるのだ。
そして思いを伝える気はまだ無い。
赤い目の男ーー奴との決着を、全て終わらせてからこの思いを伝えたいのだ。
しがらみのなくなった身でなくては…真っ白な晴香を穢れた自分が穢してしまいそうで怖いのだ。
「八雲くん?」
本を開いているのにも関わらず、本に目を向けていないことに疑問をもった晴香が声をかけてくる。
…この思いを、もう、伝えてしまおうか
そしたら楽になれるのか、と馬鹿なことを考えてしまうあたり自分はだいぶ疲れているのか。
だかしかし、心に留めておくには
余りにも思いが大きくなりすぎた。
…こんなに、好きになるなんてな
晴香に会った頃は、まさかこんなに長い付き合いになるとは思わなかった。しかも自分が恋愛感情を持つなんて。
「八雲くーん?」
何度も呼びかける晴香の声を聞いてる内に、ふとカレンダーの日付が目に入った。
八雲の口角が上がる
「なぁ、トラブルメーカー」
これは、ただの気まぐれ。
そう自分に言い聞かせる。
「いつもいつも暇なのか?」
「別に来なくていいんだぞ」
「もう帰ったらどうだ」
ああ…そうだ
「その服、なんだ。全然似合ってないぞ」
「なっ…!八雲くんのばかあっ」
もう知らないっ、と晴香がドアから出て行く。
ドアが閉まりきる前に、八雲は小さく呟いた。
「大嫌いだ、ばか」