【天野 優】の小説A

□要祐 50音シリーズ
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逢いたいという気持ち




今日と明日。
要は生徒会の仕事だから帰るのは別になるらしい。
(俺がそれを悠太に聞いて、要には何も言われてないって、どういうことなんだか…)
要もいないし悠太と春は部活に行っちゃったし、千鶴は愛しのメリーを追いかけて消えた。
暇な事この上なくて、しかも家の鍵を置いてきたから帰れない。
「あーあ、もう全部要の所為だ」

だから、放課後の教室。

わざわざ要を待ってあげる事にした。
要の鞄は無いけど、生徒会なら見回りくらいする筈でしょ。
…何の根拠も無いけど。
ていうか、ちょっと期待して…
無いけど。

ほんの気まぐれ。
誰もいなくて静かな教室で要の席に座った。
俺のと変わりない机。
変わりない高さの椅子。
中に手を差し入れると、ぎっしりした教科書の山とノートが触る。
それと…紙が一枚。
何となく興味で引き出して見たら写真。

偶然、俺の写真を見付けた。

要の机から。
教科書とノートの一番上に置かれたのは盗撮写真。
すけべな要が何時撮ったのかは知らないけど、かなりの古い。
確か小学生の時だと思う。

相変わらずの無表情。

でも視線はカメラのレンズより少し上の、多分撮影者の姿を見ている。
要が大事に持っている、要を見てる俺の写真。
別に昔のを見なくても良いのに、と思った。

ただ視線が要を見てるだけじゃん。

今の俺のがずっと要を見てるのに。

俺は携帯電話のカメラを起動する。
内カメラに設定すると自分の無表情とピースを写真に収めた。

相変わらずの無表情をもう一枚だけあげるから。

だからせめてあの頃よりは今の俺を。

見て欲しいのは我が儘?
俺はそう思うけど、要は?
なんて馬鹿な自問自答か知らないで呟く。
「代わりにこれは貰うからね」

何より今の俺を全部持ってる要

俺だって要の全部を持ってる証に

要の大事な写真は俺のポケットの中にしまっておいた。
代わりに俺のケータイを机の中に入れる。
あの写真を画面に出して。

早く来ないかな、要。

何も気付かない要を見ながら帰りたい。
ううん、ただ要と帰りたいだけ。
近くであの声を聞いて、囁かな悪戯に気付かない要を見て、ただ幸せな帰り道を歩きたい。
だから要、

早く来てよ

なんだか今、
『逢いたい』気持ちだから。
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