【天野 優】の小説A

□恋人がヤキモチを妬く
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双子のお兄ちゃん。
悠太が俺の恋人になって初めての夏休み。
部活で学校に行く悠太に着いていく訳でもなく、俺が家でダラダラと時間を潰していたら…
「ゆっきー!!暇だし遊びに来てやったぜ!!!!」
何故か千鶴が家に上がり込んでいます。

初めは千鶴らしく幼稚なテレビゲームに夢中になってた癖にお昼の十二時になる頃には飽きだして、テレビ画面から二階にチラチラ視線が移り始めた。
「ねえゆっきー、ゆっきーたちの部屋って二階だよねぇ?」
ニヤニヤした顔でコントローラーを放って、俺の脇をつついてくる。
「千鶴、痛い… それとほら、コントローラー」
千鶴や春たちと要のお見舞いに行ったのを忘れた訳ではない俺は、千鶴にコントローラーを押し付けて誤魔化そうとした。

「はいはい、わっかりましたよ」
(あれ…千鶴が引き下がった)
千鶴も少しは成長したんだね、というと何でか怒鳴ってた千鶴は再びゲームに熱中。
そうすると俺はトイレ行ってくる、と軽く声をかけて二階の自室へと向かう。
千鶴はどうせ二階に来ちゃうだろうし、来るまでに部屋の中の拙いものを隠しておくつもり。

拙いものと言ってもアルバムとか写真とかを隠して…幼稚園の頃の要の写真は出しておこう。
(うわ、要ってば生意気な顔…)
「ゆっきー?トイレって何処にある訳ー」
要の写真の後にまた写真を見付ける。
幼い姿を前につい笑っていたら…仕組んだ様にドアが開いた。




ゆっきーがよく読む漫画だと風が吹くシーンなのか分かんないけど、その時のゆっきーは綺麗な笑顔で何かを見ていて、髪がまるで風で揺れたかの様に靡いて…
「あ、千鶴」
そして直ぐいつものポーカーフェイスに戻った。
「ゆっきー…」
あれ、でも俺の頬は熱くて…
どうしよ!?ゆっきーの顔見れないんだけど…!?

「千鶴どしたの?」
ゆっきーが、微動だにしない俺を不思議に思ったのか近付いてくる。
「え、あっ、うわっ!!」
あ、俺足もつれて…
転ぶ…!!

「何だ、千鶴か」
そしたら後ろからゆっきーとそっくりな声がして、体が支えられた。
「ゆ、ゆうたん!?え、何でいきなり!?」
俺が聞いてるのに!!
ゆうたんのやつ、無視してゆっきーに話しかける。
「ただいま、祐希」
「おかえり、早いね」
「色々気になって」
「ふーん」

ゆうたんはゆっきーから目を逸らしもしないでちょっと冷たい声を出した。
「で、千鶴は祐希が一人の時に何の用」
「へ!?あ、用なら遊びに…」
ゆうたんの視線の先でゆっきーがほっぺを赤くして俯く。
珍しいさっきの笑顔とか照れた顔とか…見てるとドキドキするのはどうしてなんだろう。
「祐希遊ぶなら言いなよ、お兄ちゃん心配するから」
宥める、よりずっとずっと優しい声音。
さっきのと大違いなんだけど?

「悠太、でも…」
「だから後でさ、」
ゆうたんが声を遮って、ゆっきーが一瞬顔を上げて、それからはっと頬を真っ赤に染めた。
何だか俺も照れた。




部活中の休憩に祐希にメールしたのに、返事が帰ってこない。
お兄ちゃんの俺は祐希を24時間見てなくちゃいけないから、当たり前に帰宅した。

案の定、玄関には祐希のじゃないスニーカーが一足脱ぎ散らかしてある。
(…誰)
祐希は鈍くて他人と同調しやすいから、もし今来ている人が俺のいない隙を狙ってたとしたら…

足音も立てずにリビングを覗いて、付きっぱなしのテレビゲームとコントローラーと…そこからはちょっと離れた所に祐希の携帯電話を見つけた。
位置関係から考えて祐希が携帯電話を見なかったのは面倒だったからの様だ。
そして何も物音のしない家で、唯一小さな声がする。
上の階。しかも『二人』。

階段を登りながら、心拍数が酷く少ないのを気にした。
興奮状態から、貧血の一歩手前。
階段の曲がった所から足音を更に忍ばせて廊下を見通す。
(いた)
俺たちの部屋から突き出した片足、片手、段々と露わになる後頭部。
それが誰だか分かる前に背中を捕ると、千鶴だった。

「何だ、千鶴か」

机の前、驚いたけど嬉しそうな祐希の顔。
ほっと安堵してからただいまを言った。
「おかえり、早いね」
「色々気になって」
「ふーん」
千鶴には珍しく隠していた感情もろバレの声を出してしまった。
千鶴はしどろもどろになって黙る。
祐希は俺が真っ直ぐ見つめると俯いてしまった。
(照れてる…)
普段無表情な祐希に表情を与えられるのは俺だけだ。

優しく、燃えた瞳で諭すと、祐希は顔を上げた。
千鶴が惚けた顔をしてるのは気に食わないけど、唇だけで伝えた『セックスしよっか』に祐希がもっと真っ赤になったから気にしない。

ひとまずは、気にしない事にした。

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