【天野 優】の小説A

□[要祐]彼女になりたい
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彼女になりたい




放課後の教室で、二人きり。
気を利かせた悠太が千鶴たちを連れて先に帰っちゃったもんだから、俺は要と二人でこうして向き合って黙り込んでいる。
元より会話は弾まずに、窓から見える運動場の部活動を眺めていただけだし…。

『あー暇』
『お前部活入ってんのに行かねーのかよ…』
『またまた…そうやって要は青春を浪費したがるー』
『お前以上に青春を浪費してるやつがいるかよ!?』
『ほら怒鳴るー また青春の浪費してるよこの人は…』
『誰の所為だよ!?』
『要』
『お前なぁー…』

そんな会話も数分前の出来事で、俺の態度にすっかり呆れて溜め息を吐いた後、要は黙り込んでしまった。
向かい合ってるって言ったって二人とも視線は窓の外だし、頬杖を突いた手だって触れる程近くには置いてない。

何か……

「つまんない」
「はあ!?い、いきなり何だよ!!」
視線を窓枠の校庭から外して要を見ると、至近距離で目があった。
要は照れて真っ赤になりながら唾を飛ばして怒鳴る。

俺だってちょっと恥ずかしいけどさ、そこで要が照れんのは何か『逆』じゃん…。
「要が構ってくれないんで祐希くんはつまらないです」
「なっ…//」
ほら、そこでまた真っ赤になるし。
「俺はかっこいい要が見たいの」
「お前、どういう流れで話してんだよ!?」
「要には教えませーん」
「…あっそ」

そうして要はまた窓の外を見て、頬杖を突いてる。
やっぱり俺には構ってくれなくて、寧ろ二人っきりじゃない方が話するかも。
(なーんだ…つまんないの)
悠太の折角の厚意も役に立たず、無駄ーな時間が過ぎていく。
「あー超、暇
もう、暇、暇過ぎる」
「暇、暇うっせえよ!!」
「だって要が…」
「はいはい、分かったから」

要は窓の外がよっぽど気になるみたいだ。
それとも俺の話によっぽど興味が無いのか。
(俺、いなくて良さ気だよね…)
悠太には悪いけど、この時間は明らかにいらなかったみたい。

「帰る」
「は!?」
「帰る」
「だから何で!?」
「つまんないからに決まってるでしょ
じゃーね、要」
「あ、おい祐希!!」
要の事を置いて、スタスタ歩いて、教室の出口。
案の定、要も鞄を持って追いかけてくる。
「お前、何だよ急に」
思った通り追いかけてきた…嬉しい。

でも、帰るって言うまで全然構ってくれなかったから
「要くんには教えません」
「またかよ…」
はあ、と深い溜め息を吐かれた。
要が悪いのに俺の所為みたい、な要の仕草。
これじゃ俺が我が儘みたいじゃん…。
「言っとくけど、要の所為だからね」
「はあ!?何で俺が」
ほら、やっぱり分かってない。

「要は俺の事好き?」
まだまだ明るい校舎の中を二人で歩きながら、鞄が無い方の手を腕に絡めてみる。
ぼん、て真っ赤になる要のほっぺ。
やっぱり…
要は俺より可愛い。
これじゃ『逆』じゃん。
俺は要の『彼女』になりたいのに…。
「な、何でお前はまた急に…」
要がまた溜め息を吐いてから俺の顔を見て、そして何でか急にニヤっと笑った。
「お前、声出てんぞ」
「え…?」

「彼女になりてーの、お前?」
「……黙秘権を行使します」
「可愛くねーな…認めろよ、聞こえてたぞ」
最悪。
「帰る」
「だから今帰ってんだろ…」
「だって…」
もう要の恋人なのに、俺はもっと思われたくて、せめて可愛い女の子みたく『彼女』になれたら、要はもっと俺の事構ってくれるのかなって考えて…。
もっと…もっと…
もっと要といたくて…

「祐希?」
「…かな………めがね」
ぽつりと呟いて要の顔を伺う。
要はまた溜め息を吐いて、それから俺の髪をくしゃりと撫でた。
「照れてんの?」
「ばか」

要はまたニヤって笑う。
「お前みたく可愛かったら彼女つっても信じるかもな」
そんな風に言って俺の背中に手を回してくれた。
俺よりちょっと低い癖に2cmの差を無いみたいに、寧ろ俺の方が小さいみたいにしてくる。

まるで、俺が女の子みたく−−

彼女、みたく
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