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□チョコレート※
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2月に入り、年度末に向けてやらなくてはならないことが増える。年末ほどではないが例年忙しくなってしまう。それは、検事局も警察局も変わらない。唐突に鳴り響いた電話は、その内容まで唐突だった。

『御剣ちゃん、14日空けてておいてね』

デートしよう。と巌徒は言いたいことだけ言って電話を切ってしまった。
御剣は通信の切れてしまった受話器を握り締め、呆然と見つめる。刹那後顔が熱を持ち心ときめくのを自覚する。なにせ、十四日はお菓子会社の陰謀犇めく日、もとい、恋人たちのイベントと言ってもいい日だ。忙しい巌徒が御剣のために時間を作るなど、嬉しくない訳がない。に意識していた訳ではないが、公に恋人たちのイベントとされる日に誘われるのは不意打ち以外の何物でもない。
ここはときめかない方がおかしいだろう、とニヤける口元を片手で覆った。



それから数日、なぜこうなった。と、目の前で怪しく笑う巌徒に御剣は心中で吐息する。

「見て見て、御剣ちゃん。ほらコレ。食べられるローションだって。なんと、チョコレート味、ピッタリでしょ。ほら。今日ってバレンタインだし、ちょうどいいよね。・・・・・・試してみない?」

言い様、確かにチョコレート色をしたトロリとした液体、巌徒曰くローションを片手に近づいてくるのをベッドに座したまま見つめる。逃げられない、否、恋人である巌徒から逃げようなどと思わないのだが、どこか肉食獣を思わせる瞳に無意識に少しだけ体躯をベッドヘッドに押し付けるように逃げをうつ。そのわずかな距離を詰めるようににじり寄る巌徒は嬉々としてボトルのキャップを開け、掌にゆっくりと垂らす。誰も了承の意など示していないのだが、と御剣は口にしたところで決して変わることのない未来に吐息する。ならば、巌徒の機嫌を損ねるようなことをしない方がいい。
御剣の眼前に差し出される掌からは、ふわり、と甘い香りが漂う。くん、と鼻を鳴らせば鼻腔を擽るのは確かにチョコレートの香りだ。ペロリ、と躊躇いなく自らの掌の中身を口にする巌徒を窺う。そのまま頭を引き寄せられるように口付けられる。舌に塗り込めるように巌徒の舌が絡まり、口腔内に広がるのも正しくチョコレートの味だ。普段口にするものよりも味は薄く品質は劣るが、コレがローションであるならこの程度だろうと得心する。


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