無音の歌姫 .

□贈
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数日後、退院することになった。













今日の担当はヤマト。

ヤマトは私の少し前を歩いて、里の外れの森へ向かった。

新しい家は、森の中にあるらしい。
人目につかない場所は森の中が一番なのかもしれない。

集落から大分離れた森の中に、木で出来た小さな家があった。


まだ新しかった。

中に入ると、優しい木の香りが私達を包んだ。



「必要なものはそろえているから、好きに使っていいよ」


と、私の少ししかない荷物を部屋の隅に置いたヤマト。



「大抵は僕かシカマルがついていると思うけど、いないときは部屋から出ないようにね」


頷いて、部屋にある窓に歩み寄った。
見えるのは緑に生い茂った木々。
少し上を見上げれば、あいかわらず晴れている空。

ここは、いいところだ。



死ぬときは、誰に見られることもない。

監視がつくとはいえ、部屋から出なければいい。




【外に出てみてもいいか?】

「うん、いいよ」


出てもいいと言われると言う事は、顔を知っているからかその程度は信用されているらしい。

入って来た木のドアを再び開き、外に出ると小鳥のさえずりと、風で揺れる木の音。

静かな所だ。



少々離れたところに、火影岩が見えた。

これも、以前ナルトが教えてくれた。



『・・・・』

「あ、そうだ」

『?』


私の後ろから、部屋から出てきたヤマトが何かを思い出したように何かを差し出してきた。


「これ、サクラから預かった薬」


頷きながら受け取った。


「痛みが酷かったら飲んでだって」

『!』

「え、何?」

『・・・・』



すぐ、ヤマトの言った意味が分かった。

傷が痛むとき、ということだろう。

呪印のほうだと、思ってしまった自分がいた。



よかった、ヤマトは呪印のことは知らされていないみたいだ。
シカマルが黙っていてくれているのだろう。


しばらく、外でボーっとしていた。
ヤマトは、中でなにやらカチャカチャと音を立てながら何かをしている。


日が落ち始めた。


火影岩が、オレンジ色に染まる。






『!』


なにやら、いい匂いが中からしてくる。

覚えのある匂い。
ドアを勢い良く開けて、中に入ってその人の背中を見つける。


「ん?」

『・・・』


振り返ったのは、違った。



"みそしる"の、匂いがした。



だから、作っているのも、あの人だと思った。

呆然とヤマトを見ているとさすがに不思議に思ったのか、どうしたのと声をかけられた。


ふるふると首を横に振り、開けっ放しのドアを閉めた。

ヤマトの手元を覗き込んだ。

くつくつと湯気を揺らしたてる"みそしる"があった。



初めて、"みそしる"というものを教えてくれた人。






カカシ―――



元気かな。

じっと鍋を見つめていると、



「味見してみるかい?」


そう、言われた。
コクリと頷いて、小皿にとってもらった"みそしる"を口に入れた。


おいしい。


でも、カカシのとは少し違っていた。

でも、あったかい。

とっても、おいしかった。



「どう?」

『・・・』



今度は自分から小皿に少し取り、また口に含んだ。

それを何度か繰り返した。


「ちょっと、今そんなに食べたらご飯食べれなくなるよ」


ヤマトは困ったように、でも嬉しそうに笑いながら言った。

おいしい。


カカシの"みそしる"、また食べたかったな。


柄にもなく、涙が出そうになった。
それを必死でこらえ、小皿をヤマトに手渡し、また外に出た。


空を見上げると、もう星が出ていた。







一筋の雫が、頬を伝って土に落ちた。
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