RED LOVER .

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なぜか、撃たれたはずの銃弾がキッドの手の前で止まっていた。

地面に落ちもしない、動きもしない、言葉通り止まっていたのだ。
そして不敵な笑みを浮かべるその赤い瞳は、あの優しい笑顔じゃなくて。

身が凍るような、冷たい視線。
それは男の視線とぶつかっていた。

男は驚愕し、恐怖で震えていた。
それもそうだ。

銃弾を、いとも容易く無力化されたのだから。


「な、なんだお前!!」


叫んだのは、男。
鼓膜が破れそうな大声で吠えるように叫んだ。


「あァ?」


キッドが腕を下げると、同時に重力に従って地に落ちる弾。
囲んでいた警察や一般人の声が聞こえなくなる。
キッドの不思議な力に、騒然としたのだ。


「変な手品なんか使いやがって・・・!」

「手品・・・?ハッ、手品か・・・!」

「!?」


可笑しそうに笑うキッドに、男の肩はびくりと跳ねる。


「もっと面白ェ手品、見せてやろうか」


更に口角を上げたキッドは、真横に右腕を伸ばした。
その動きに、空気が止まった気がした。

カチャ、カチャ、と小さな音が聴こえてくる。
その音がどんどんと大きくなる。


「う、動くな!でないとこいつを撃つ!」


ガタガタと震える男の手に握られた銃が再びわたしのこめかみに当てられる。
が、それと同時にキッドの動きがピタリと止まる。


「・・・おい、テメェ・・・」

「・・・・・・?」


地を這うような恐ろしく低い声。
ひやりと背筋が凍った。



「そいつに、銃口を向けたな」



ギロリと刺すような赤い目が男を捉える。
ひっ、と小さく声を漏らす男。
吸い寄せられるように、大量の金属がキッドの腕へと導かれる。


「この世界じゃあ、人は殺すなとそいつに言われてるからなァ」

「え・・・・・・」


一瞬、目が合った。
既に腕は巨大化し、大きな影を作っていた。


「だから、死なねェように気をつけろ」


ニヤリと不気味に微笑んだキッドは、何の迷いもなくその腕を男に向かって振り下ろした。


「っ、!!」


咄嗟にわたしから離れて男は逃げようとするが、それも時すでに遅く。
男の体の大半が巨大な手の下敷きになった。

わたしは腰をぬかし、へたっと地面に座り込む。

ガチャガチャと金属がキッドの腕から落ちていき、いつもの腕が見えた時にはキッドの笑みは消えていた。


「紗雪・・・!」

「・・・おに、ちゃ」


警察の中から出てこようと人を掻き分ける兄より早く、キッドがツカツカと近寄ってくる。


「・・・来い」

「う、ん・・・」


キッドに抱えられた瞬間、はっとしたように警察が動き出した。

半分は元凶である犯人の元へ、もう半分はわたしとキッドを囲む。
警察は、キッドを危険対象と勘違いしているらしい。
けどそれもそうか。
銃弾を止める未知の力を見せられれば誰だって警戒するよ。


「チッ・・・めんどくせェ・・・」

「に、逃げなきゃ、捕まっちゃうよ・・・」

「言われなくても逃げるっての」


掴まってろ、と耳元で呟かれ咄嗟にキッドの首に腕を回す。
途端に強い風が吹いたと思い目くばせをすると、人ごみの中をするすると走り抜けるキッドの横顔が見えた。

人が多すぎるのかある建物に入っていった。
階段をすごい速さで上るから息が苦しい。


バンッと音がして風がやむ。
屋上に出たらしいそこは、追ってくる人もいなくて静かだった。
家どっちだったっけなどと呟きながら何かを考えている様子。

その間に、だんだんと階段を上ってくる音が聴こえてくる。


「ど、どうしよう・・・」

「あ?」

「逃げるとこ、ないよ」

「はァ?何言ってんだお前」

「・・・?」

「適当に飛ぶぞ」

「・・・はい!?」


どういうことかを聞く前に、キッドは再び走り出していた。
足音が近くなって、キッドの肩越しに後ろを見ると丁度屋上に出た警察と目が合った。


「舌噛むぞ、口閉じてろ」

「っ、!?」


何のことか分からず、慌てて言われた通り口をギュッと閉じる。
と同時に浮遊感に包まれて、開きそうになる口を必死に耐える。

軽く着地したと思うと、さっきいたはずの屋上が数メートル後ろに見えた。

飛ぶって、こういうこと!?
この体格でどうやって飛べるの!!


「・・・な、なんだよ」


口あんぐりと開け、目を見開いてキッドを見上げる。

それから何度か屋上を飛び移り、ある程度距離を離したところで階段を下りた。
思った通りあの人ごみはなく、幾分静かな通りに出ることが出来た。

人通りがない通りに入りながら隠れるようにして家に帰った。
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