RED LOVER .

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顔は覚えていない。
覚えていない、はずだったんだ。


なのに。
どうして・・・



「大きくなったな・・・」

「・・・お父さん、だよ、ね・・・」

「ああ・・・」


自分では冷静なはずなのに、体はそうはいかない。

声が、手が、足が、小さく震える。

持っていた爪楊枝を落としそうになり、平静を装いたこ焼きのパックの上に置く。
隣に立っているキッドはその様子をじっと見ていた。

ダメだ。
ここで変な態度取ったら、キッドに不思議がられる。
ついさっきだって、何かを感づいているような質問をされたばかりなのに。


「紗雪の彼氏か・・・?」


お父さんは、キッドを一瞬見てそう言う。

違うよ、その一言が、喉が詰まったような感覚で声にならない。







怖い――







その感情だけが脳裏に浮かぶ。


「そんなんじゃねェ」


キッドの声が遠くに聞こえる。
目の前にいるのは、わたしが大嫌いな人物。


「違うのか・・・。残念だ・・・」

「お父さん、」

「ん?」

「わたしたち、まだお祭り見たいからそろそろ行くね・・・」

「あ、あぁ。呼び止めてごめんな。じゃあ、また機会があったら」

「うん、じゃあ・・・」


行こうキッド、と半ば無理やりキッドの手を取りお父さんの横を通り過ぎる。
すれ違い際に、後ろから声が聞こえた。





「パパ!」

「もう、探したんですよ?」


思わず振り返ると、お父さんに笑顔で駆け寄る小さな男の子と、髪の長い女の人。
男の子を抱き上げるお父さん。

わたしが見ているのに気が付くと、すぐに顔を逸らされた。



新たに生まれた、"怒り"という感情。
どうしてそんな感情が生まれたと同時に、記憶が鮮明に思い出される。

全て、思い出される・・・。






「おいバカ」

「・・・・・・それはわたしのことか」

「他に誰がいんだ。どこまで歩くつもりだ」

「え?」


気が付くと、露店が並んでいるところからは少し離れて、神社の奥へと来ていた。


「あ、ごめん・・・」


我に返り、再び来た道を戻ろうと一歩踏み出した瞬間、強い力で腕を引かれた。
いきなりのことでバランスを崩したわたしは、その方向へ倒れる。

けれど、地面に倒れることなく、大きな腕に受け止められる。


「キッド・・・?」

「あいつに何された」

「へ・・・?」


少し上にある赤は、わたしの両眼をしっかりと捕えていた。


「あの男に、何をされた」

「お父さんの、こと・・・?」


いつもより怖いキッドの顔。
やっぱり、キッドは何か勘付いている。

さすが海賊の船長とでも言うべきか。
どんな小さなことにでも頭が回る。


「別に、何もされてないよ・・・」

「・・・・・・帰るぞ」

「は!?」


ずんずんと今度はわたしの手を引かれ、さっきまでいた露店の通りでもキッドは何にも目をくれず、さっさと歩いていく。


「ま、待って、もう少しゆっくり・・・」


ただでさえ歩きにくいのに。
それに、草履で足が擦れて痛い。


「痛っ・・・」

「あ?」


小さく声が出ただけなのに、キッドにはそれが聞こえたようで。
すぐに立ち止まって私の足元を見た。


「ったく、・・・落ちるなよ」

「え・・・」


一瞬浮遊感に包まれ、気付いた時にはキッドの腕の上。
慌てて首に腕を回し、落ちないようにする。

神社から離れたところで、人通りが少ない道だったのがよかった。

軽々と右腕だけで支えられて、キッドは何ともなさげに前を見据えている。


「ご、ごめん・・・」

「・・・俺に嘘は通じねェぞ」

「・・・・・・うん」


そう言ったキッドに、わたしは何も言えなくなった。

























痛むのは、足か、それとも


「全部俺に話せ。お前のこと、全部だ」

「・・・・・・分かった」






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