REDLOVER 2
□2‐18
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モニターに映る二人が何をしているかなんて、わたしでもわかる。
静かに頬を伝う温かい雫が、冷たい床に落ちた。
同時にわたしは膝から崩れ落ちた。
どうしてこの世界でまでこんな思いをしなければならないのだろう。
「・・・どうしてあんたは、キッドとわたしを会わせたの」
「そうねぇ・・・、貴女をこの世界に連れてきてもらうためかしら」
「なら、他の人でもよかったでしょ・・・」
「ええ、でも現に今こうして戻ってきたのだから私にはもうそんなことどうでもいいわ。まさかユースタス・キッドなんて名の知れたルーキーを送っていたとは思わなかったけれど」
「・・・言ってる意味がわからない」
「要は誰でもよかったのよ。貴女がここにたどり着いてくれることが私の目的だったから」
いかれてる。
そう思わずにはいられなかった。
誰でもよかったなんて。
じゃあわたしはキッドじゃない誰かに出逢っていたのかもしれないの?
そんなのおかしいよ。
こんなの、酷すぎる。
キッドに出逢わなければ、こんな思いをせずに済んだかもしれないのに。
わたしのよりも一回りも二回りも大きな手が、わたしの目を覆った。
それと同時に後ろに引き寄せられて、体が柔らかいものに包まれる。
手が離れて、歪む視界で捉えたのは桃色の羽。
それがドフラミンゴのコートだと認識するのにはそう時間はかからなかった。
「それ被ってろ」
そのままコートで包まれて、数秒のうちに鈍い音が聞こえて。
恐る恐る顔を覗かせればアヴリルが倒れる瞬間だった。
そして二度と動かなかった。
「・・・ドフラミンゴ、」
「んじゃ、終わったし帰るか」
そう言って笑った顔は、あのうさん臭そうないつもの笑みで。
コートごと抱きかかえられたのには驚いた。
改めて、この男は人間なのだろうかと疑うほどの身長だと思う。
そんなくだらないことを考えているうちにドフラミンゴはその建物の地下へと足を進める。
「アヴリルも所詮、頭のイかれた研究者だったってわけだ」
「・・・わたしが、作られた人間だから?」
「そうだな」
こんなにはっきりと言われれば、吹っ切れた気がして。
諦めにも似た感情で。
静かな廊下には、あの女が言っていたキメラであろう獣が転がっていた。
ドフラミンゴはすごいな。
こんな強そうなのをあんな一瞬で倒しちゃうなんて。
「お前、これからどうすんだ?」
「んー・・・お母さんもあんなだったし、もう何もすることなくなっちゃった」
「ユースタスはいいのか?」
「やっぱりあの二人お似合いだし、わたしが邪魔しちゃ駄目だろうね」
「なら、俺と来るか?」
「へ?」
それ以上ドフラミンゴは何も言わなくなった。
見上げても、無表情のまま。
地下に通じる階段を最後まで下りたところでコートと一緒に下ろされる。
「牢屋の鍵だ、助けてやるんだろ?」
「あ、ありがとう・・・あ、これ、もう大丈夫だから」
ピンクのそれを差し出す。
わたしには少し重すぎるそれを、ドフラミンゴはなかなか受け取らない。
「・・・?」
「後で返しに来い。ここから西に向かったとこに船を泊めてある。それ返しに来た時に返事聞く」
「え、もう行っちゃうの・・・?」
背を向けた彼に、思わずそんなことを口にしてしまう。
「なんだ、居てほしいのか?」
その声色は冗談なのか、真面目なのか。
「お前のクルーに会うと面倒事になるのは目に見えてるからな、俺はここまでだ」
「・・・あ、あの!」
これだけは言っておきたくて。
慌ててドフラミンゴのシャツを掴んだ。
「ありがとう・・・!」
「フフッ、・・・礼なんかいらねェよ。ただお前を気に入ってるからってだけだ」
「え?」
半ば無理やりぐしゃぐしゃと頭を撫でられ、次の言葉を言う前にドフラミンゴは階段を上って行ってしまった。
しばらく呆然とその背中を見送ってから、チャリ、と鍵のなる音でハッとする。
重たいコートを引きずらないように両腕で抱えながら小走りで牢屋を探す。
「皆さん、どこですか!?」
もう敵がいないだろうと叫べば奥から小さく呻き声が聞こえた。
その方向に走っていけば、怪我だらけの見慣れたクルーが牢の中で倒れていた。
「遅くなってしまってすみません!今助けますから!!」
急いで鍵を開けて中に入る。
すぐ近くに倒れていたヒートさんに駆け寄れば、やはり血だらけで。
「すぐ治しますから!」
大分慣れた感覚で黒鳥へと姿を変えればすぐに羽を広げ治療する。
青白い光に包まれたと思えば徐々にクルーたちの顔色が戻っていく。
「とりあえず今は簡単にですが、船に戻れば、・・・」
言いかけて、船医であるショットも襲われたことを思い出す。
今まともに動けるのはきっとわたしだけ。
怪我も完治していないこの状態でもし、・・・もしまだ敵が残っていて襲われたら。
そんなことを考えていれば、黒い影が目の前に膝をついて、次の瞬間には強く抱きしめられた。
「え・・・・・・?」
「無事でよかった・・・」
「お兄ちゃん・・・」
なんだかひどく安心した。