REDLOVER 2

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父に負わされた火傷が原因で入院することになった。
数週間で退院し、無事中学へ入学できた。
その時兄は高校卒業間近だった。
会話をすることは滅多になかった時期だった。


それなりに友達も出来て、何気ない日々を過ごしていた中学2年の秋。
友人に紹介された一人の男との出会いがきっかけだった。


「ミナミちゃんて言うんだ、ちっさいなあ!」


年齢19歳。
初対面でそう言われて、元気そうな人だなーというのが第一印象だった。

付き合うまでにはそう時間はかからなかった。
優しい人で、笑顔が似合う夏男って感じだった。
一緒に出掛けたりもしたし、体を交えたこともあった。

背中の傷に気づいても、無理に聞き出そうとしないで優しく抱きしめてくれたのを覚えている。
いつしか、わたしはその人を大好きになった。
お弁当を作ってあげたり、誕生日にはプレゼントをあげたりもした。
バレンタインだって何度も失敗してやっとうまく出来た。
ホワイトデーにはおそろいのブレスレットをくれた。

大好きで大好きで、わたしにとって一番の存在になった。


















中学3年の冬、高校受験の合格発表の日。


無事合格し、真っ先に報告したくて自宅に向かう前にその人の家に向かった。
寒くて頬が凍るように冷たくなるくらい走った。
インターホンを押すのも忘れて、玄関に飛び込んだ。


いつも聞こえるテレビの音が聞こえなくて、仕事なのかもしれないと思い中で待ってようと靴に手をかけた。
足元には見慣れた靴の他に、女物の靴が一つ。
サーッと血の気が引く感覚に襲われ、足音を立てないように静かに部屋へ歩を進めた。
だんだんと聞きたくない声が聞こえてくるにつれ、瞬きをするのも忘れた。


「あのコとまだ続いてんの?」

「は?」

「ほら、中学生の、言ってたじゃん」


ドクンと心臓が異様に反応する。
背中を嫌な汗が伝ったのが分かった。


「あぁ、アレ?本気なわけねェじゃん、あんなガキ」


聞きたくない


「ヒドッ、アハハ、可哀想ー」

「あいつ目の色ホントは緑なんだぜ?それに背中に火傷みたいな痕あってさ、気持ち悪ィったらねェよ!」


ドアを開けようとした手が止まった。

中からは、知らない女の喘ぎ声が聞こえ始めた。
静かに、涙が頬を伝った。


裏切られた、いや、最初から本気じゃなかったんだ―・・・
裏切られた感覚がした。


ふと目に留まる、大事にしていたブレスレット。


"気持ち悪ィったらねェよ"


くすんでしまったように、ぼやけて見えた。




そこで帰ればまだよかったのかもしれない。
なのに、何を思ったのかそのドアを開けてしまって。

二人の視線が、わたしに注がれる。
男の方は、ヤバイといった顔。
女の方は、驚いた顔。


「気持ち悪い思いさせてごめん」


お気に入りだったブレスレットが手から空しく落ちた。







家についたときは兄が帰ってきていた。


その時だけは、どうしたと声をかけてくれた。
あったかいココアも淹れてくれた。







その出来事があってから、丸っきり他人を信じるということをしなくなった。

人を好きになるのも恐怖に感じるようになった。

背中の傷とこの瞳を誰にも見せたくないと、無意識に思うようになった。









――・・・・・・









気が付けば、月の位置が少しずれていた。
夜も一層深くなり、風も冷たくなってきた。


「それで、キッドを好きという気持ちを否定している、と」

「そこまで言ってませんけどね」

「見ていれば分かる。修二も気づいているみたいだしな」


船の縁に腰掛け、足を組むキラーさん。

鋭いというか勘がいいというか。
あの話だけでなぜそこに辿り着くのか、鋭いを通り越して心を読まれている気がしてならない。


「キッドが好きと思ってしまえば、結果はどうであれ裏切られたと感じてしまうと思うんです」

「・・・それは分からないだろ、裏切られるということ自体ないかもしれない」

「出来ればそう思いたいです。けど、そう思えばわたしがキッドを好きだということを認めることになってしまいます」

「駄目なのか?」

「また、同じ思いをしたくないので」


逃げているのだと分かっている。
自分の身を守っている弱虫だってことも分かってる。

自分の都合のいいように目を背けてる。


「・・・それならそれで、いいのかもしれない」

「・・・・・・・・・」

「ただ、その思いを認めた時、お前はキッドの過去もすべて受け入れる覚悟がなければならない」

「・・・?」


キラーさんは、静かにそう言った。
"キッドの過去"、わたしはそれを全く知らない。

好きということを認めるということは、相手のすべてを受け入れることだとキラーさんは言った。
その声色から、キラーさんはわたしの知らないキッドの過去を知っている。
そして同時に、それはわたしには受け入れがたいものだということも表しているように思えた。


「お前が本当にキッドを想うのなら、多少の覚悟はしておいたほうがいい」

「あの、キッドの過去って・・・」

「俺の口からは話すことは出来ない・・・」


それからキラーさんは黙り込んでしまった。
簡単に口にしていいものではないのだろうそれを、わたしは聞かないことにした。
いや、聞けなかったという方が正解かもしれない。


「いいです。今は、知らない方がいいと思います」

「・・・すまない」


空を仰ぎ見ると、やはり変わりなく光る星がわたしたちを見下ろしていた。

まだこの気持ちは閉まっておこう。
今は、まだ・・・

























静かに隠した想い


「早く寝るんだぞ、明日は島に着く予定だ」

「はい、おやすみなさい」






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