長編小説

□五日目
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ドクン、ドクン、と心臓の鼓動をやけにはっきりと感じる。対峙する相手の、その異常性ゆえである。

と、相手の手元が、チカリと光った。

精神的打撃により硬直した体を回復させたのは、その動作だった。何かはわからないが正体不明の物を手にした相手に、日々の中で身についた習性が反射的に意識と体を戦闘態勢に移行させた。

相手の動きに警戒し、じっと見つめたその先で一際明るい光が放たれた。目を真っ直ぐ光線が射抜き、一拍遅れて眩しさに目を瞑る。そして、そのままスッと全身から力が抜けた。

膝ががくりと折れ、倒れる体を誰かが受け止めた。己の腕の中で抱き留めた体を仰向けも反転させた相手は、こちらの目を数秒見つめ、瞬きをして視線を外し手首を捕らえる。膝枕の要領で体を固定し両手を開けて、まず上着を少し引っ張り次に白いシャツの手首のところで留められてるボタンを外すと、それを捲りあげた。そして露出した手首を片手でホールドし、もう片方の手で注射針を持ち、ぷつりと針を刺した。

微かな痛みに「あ…っ…!」という吐息のような声が漏れる。自分の手首に刺さった細い針から透明な液体が徐々に、だが確実に注入されるのを視認する。注射器内の液体の減少とともに視界がぼやけ、音が遠ざかり―――意識が、真っ白な光に飲み込まれた。


それを見届け注射針を抜き体を抱え上げた人物は、歩を進めながら自分の腕の中で意識を失っている人間に向かって囁きかける。

「まだ夜は長い。さて、少しお話しましょうか。コード・ゼロゼロ…オキタソウゴ」
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