セカコイ リクエスト小説

□お願い 触れて 帰ってきて
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で。別に高野さんなんてどうでもいいよーと言い聞かせて翌々日。








うそだろ。



起き上がろうとしたら動かない四肢。
こみ上げる吐き気
まわる天井


か、風邪ひいた…。




俺はとりあえず震える手でエメ編に連絡

出たのはめずらしく木佐さんだった。


そういや 羽鳥さんも出張だもんな


なーんておもっていたら


『もしかしてりっちゃん
高野さん不足で風邪〜?』





木佐さん。 あなたはいつだって


一言余計だ。









そんなことあってたまるかよ。俺は服塚を踏んでベッドによこたわった。

服塚が一種の階段みたいになってるよ…

片付けたほうがいいな…


そう思ったのも一瞬

すべての感覚が睡魔に奪われてゆく。


それでも最後に感じたのは



ねむたいとかあたまいたい とかじゃなくて









お願い




触れて





帰ってきて










だった。 携帯を硬く握って
眠りにつくいい大人はぬいぐるみを抱いて寝るような子供の姿だったかもしれない。






風邪とは恐ろしいものだ。

こんなにも、会いたくなってしまうのだから。



***



prrrrr


「あれ 高野さんさっき会った作家さんに電話ですか」

隣室に行こうとしていた羽鳥がひょっこり顔をだしてそういう。
高野は静かに首をふり
プライベートだ と笑った。



その珍しくもやさしげな目に
羽鳥も じゃ 俺も失礼しますといって
姿を消した。




律。



素直に電話に出るはずのない あいつ








仕方ない


残っている仕事もあるし。








そうして高野は最後の1コールを待った。


すると


無機質な音が消え、がやがやと騒がしい雑音にうつりかわる

なんだ やっとでたのか。







「律」





出た癖に声が聞こえないからそう呼びかけると

思ったよりかすれて



でも






荒い呼吸と熱のこもった声が聞こえた







「…せんぱい…」








あ、あいつ 寝ぼけて出やがったのか。



ふと、胸が痛んだ。

もしかしたら別れてから何日かは
こうやって電話がくる度に





を呼んでいたのかもしれない、と。





だとしたら 今

俺にできることは





「律 どうしたんだ?」






『あの頃』のように語りかけること。
俺を見てくれないのは切ないけど
此処は一つ我慢しなきゃな。


「おーい律 大丈夫か?」


「だいじょうぶ、です。
あ、でも
だいじょうぶですけど
だいじょうぶじゃないです


会いたい」



「……」

「です。えへへ」



やばい。仕事投げ捨てて今すぐ帰りたい
後羽鳥にまかせていいかな
いやだめだろ社会人として
とにかく俺は頭の中の明日のスケジュールをぼこぼこと消して
真っ先に帰ることを決意した。
その間約一秒である。







よし そうと決まれば寝ぼけまくってるこいつに深いとこまで聞いてやろう

てか録音しよう。






「俺のどこが好きなの?」



「え、ええっとぉあの ぜ、ぜんぶ、かな」ぼそぼそ


「へー。てかお前ちょっと熱っぽかったりする?呼吸が乱れてるっつーか」


「あ、さっきはかりました。38度です」


「ったく寝てなきゃだめだろ

薬は? 食事は? してなかったら俺の言うとおりしにして寝ろ。
お前の部屋に薬ないんだったら
この前俺の部屋の合い鍵お前の机の上にこっそり置いといたからそれ使って
俺の部屋で休んでてもいいぞ


そしたら明日真っ先に俺に会えるぞ」

「じゃあ、そうさせていただきます
シャワーかりますね
汗っぽくて、逆に寝れなくて
明日、部屋でまってますね はやく帰ってきてくださいね でも道には気をつけてくださいね」



「ああ」


なんだ 寝ぼけてるのかと思いきや
しっかり心配までしてきやがって。
可愛いやつだな。

そして俺たちはぽつぽつと話し合い
しかし会話がつづかないのは通常運転。

そろそろ寝ようと言って
録音していたのを切ると同時





「おやすみなさい 高野さん」


そう聞いた俺は目を見開いた。

あまり表情を変えない俺としては珍しいくらい
驚いた









ツー
ツー


あわてて声かけようと思ったのに
切ってやがる。


いや…でも切っててくれてよかったかもしれない

だって俺は今ちょっとおかしい

頬に熱がたまる。





え なに 俺のこと せんぱい と思って素直になってたんじゃないの



高野 に対して








会いたいとか

好きとか





待ってるとか




















言ってくれたわけ。














「―…」









どうしよう


かわいすぎるんだけど。あいつ。
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