セカコイ リクエスト小説

□君をもう一度だけ
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「お疲れ様でしたー」

「いや、本当お疲れ様でした」


で、原稿そろえてくれましたよね?

俺が口を開く前に 木佐さんたちは じゃあ一丁のみに行くかと騒ぎ始めた。

ちょ、まだなめられているのか
俺は!

「あのっみなさ」



「はいはい飲もー!」



するとなんてすばやさなのか言い終わる前に
エメ編に残されたのは俺と高野さんだけになっていた。


「くっ…」



「なんつーか進歩ねえなあ お前」


「うるさいですね!」

「いや、うそうそ。がんばってるよお前は」


高野さんは優しい目をしてそう語った。
すると胸がはずむのと一緒に今日の夢を思い出す。





ああ あれは 留学する前
一番落ち込んでいる時期だったか。
いや、正確に言えば

落ち込むしかなかった 弱き頃だ。







「…律?」

「あ、あー すみません俺急用思い出したんで帰りますね!」


「おい律!」



呼び止める声を無視して走ると
廊下で横澤さんとすれ違い 『政宗からなに逃げてんだ』みたな目線を感じたので
俺はさらに走った。








バシャバシャと続く走り音
どこまでも続く灰色の香り。



そういえば


こんな中走って 嵯峨先輩のために傘を持っていった日があったっけ。

もし その時に 彼が彼女に傘をかしてもらい帰ってるのを見たら
また悪口言われたら










俺はどうするつもりだったんだろうか





それすらも跳ね除けて






彼がぬれなければそれでいいと

思う強さがあの頃の俺にはあったんだろうか。








昔より 俺が弱くなったって?
あんな愚かなやつのほうが強かった?


いや そんな まさか。





無駄に焦りが強くなる。
前髪が風のせいで 真ん中分けになっていて
立ち止まったビルの窓ガラスにそれを見ると
俺はどうしようもなく居たたまれなくなった。


『政宗のこと好きなのか』




ああ



確かに はい と答えたさ







それで横澤さんは別の恋を見つけてくれた


だけど 俺は




そっけない態度をしてまた
今日が過ぎていく

本当はいやになるくらい




貴方が気になるのに

どうして好きな人に素直になれないんだろう



いつでも




寂しさの裏返し
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