セカコイ リクエスト小説

□黒猫少年と僕
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朝か。

目を開けてみると視界は妙に明るかった。

まあ、くらいよりはましか。



そんなことを思い、高野は伸びをすると
ベッドから飛び降りた。
すると、そのときにバササッと何かが落ちる

「?」

服だ。

寝やすいから使っていたシャツなどが
床に散乱している。

小野寺じゃあるまいし
片付けなければ。

しかし手をのばしても
シャツを数回引き寄せることしかできなかった。


「?」


高野は首をかしげる。
なんで


(俺は四速歩行してんだ?)

疑問に思ったなら立てばいいが
それもかなわない。
こうしているのが楽だった。
人間だときつい体勢なのだが。

高野は嫌な予感のまま、スタスタと姿見の前まで来た。

そして


「にゃー」

高野的には まじか とつぶやいたのだが。

姿見には黒猫がうつっていた。

自画自賛するのもなんだが
結構綺麗な猫である。
尻尾がすらりと長く
黒い体毛は
キラキラと光っていて
鼻はピンクがかっていた。


(いや まあ猫は好きだけど)

自分でなりたいと思ったことはないのだが。


(少女マンガみたいだ)

こんなときまで冷静に仕事モードで
しばらく部屋を行ったりきたりしていると


訪問者がすくないこの部屋に
チャイムが鳴ったのに気づいた。

それだけでびくりと跳ねベッドの向こう側に隠れる自分に呆れた高野だったが
敏感になっているせいで仕方あるまい。

「高野さーん? ちょっと見て欲しい
原稿が って、いないのかな」


律の声だった。

猫になっても聞き逃すはずのない
高野にとっては一番落ち着く声。

「にゃー」

嬉しくなって

高野は鳴いて玄関のほうへ走る
しかし扉を開けたくてもとどかないのに気づいた。
猫にしては長い足でも
しょせん猫。
たちあがって扉をカリカリとひっかくことしかできない。

このままでは律が帰ってしまう!←高野が小野寺の部屋へいく:小野寺が高野の部屋へくる 9:1
な確率のそれは
この機会をのがしたら何時になるだろうか。


やばい


かえってほしくない。



人間のころよりも高野は猛烈にさびしくなってしまった。
まるで長年の飼い主が
扉の向こうにいるようで。


「にゃーにゃー」


「あれ? 猫の声」

律はまだ居たらしい。
どうしよう と扉の向こう
つぶやく。

「何かすごいさびしそうに鳴いてる…。
高野さんの帰り待ってるのかな
俺も一緒に待ってあげたほうが
でも鍵ないしなあ。

あ! そうだ
大家さんに借りてこよう
そして机の上に原稿おいておけば今日高野さんと顔合わせずにすむしね
やりぃ!

いってこよー」


なにが やりぃ! だ

と高野はイラつき扉を一回パンチしたが
扉はもちろんびくともしなかった。

こっちの気もしらないで。


確かにここの大家は心配になるくらい
ほいほい鍵をかしてくれる。
セキュリティという文字のない人間なのだ。
まあそのおかげで

高野も律の部屋の合鍵をもっているのだが。

しばらくして、律は戻ってきた。

ガチャっとあく扉。


「あー。よかった入れた。
相変わらず綺麗だな高野さんのへや
俺も見習わなきゃなあ」

しみじみという律。

高野はそんな風に思ってたのか
とすこし感動した。

もうあの悲惨な部屋は反省してないのかと思ったら
ちゃんとしてるらしい。

俺も手伝ってやるから

そう普通に話しかけようとして
高野は


「みーみー」

と言った。

すると律は

「うわあああ!!!?」

と叫ぶ。


おい。猫が居るのには気づいてただろう。
なんだ鳴かれただけでその反応は。


「き きれーな猫だな…」


窓のほうまで逃げカーテンをにぎりながら
そういう律。


(そう思うならもっと近くでみろよ!)

綺麗

と想い人に言われ照れている高野だったが
やはりこの距離は気に食わない。

だから 出来るだけ律を怖がらせないように
そろりと近づくと
律は驚いていた。

ふつう人が猫に気をつかうんだろうに。

律は猫のように
高野の様子をうかがっている。

そして高野が足元までくると
律は屈んだ。


「め めずらしい 猫のほうから
くるなんて…。


さ さわってもいい?」

そうおどおどと聞いてくる律に
高野は一気に限界に達した。

(さわってもいい
とか言われてみてええええ!!)

もちろん人間のときにである。


高野=猫なんて
気づきようもない恐る恐る触れてくる律の手は
緊張しているのか
あたたかくて、冷えていた体にはちょうどよく
高野はごろごろとのどをならしていた。

「か かわいいなあ〜」

のほほんとしている律。
お前のほうがかわいい

高野は見上げ、そう想った
普段こんな近くで見れることはないから物珍しく
じろじろとのぞいてしまう。

こんなんじゃ、ほかのやつに狙われてしまうのもうなづける。


「にゃー」

高野はここぞといわんばかりに
律に甘えた。
体をよせて、服の中にもぐりこんでも

「くすぐったいよ〜」

と笑う律は
正直鼻血もんだった。(鼻血はでなかったが)


窓から差し込む光


高野が日ごろから掃除している
綺麗なフローリングの上


遊びつかれた律と高野は寝そべった。


何時以来だろうか

こんなに近く まったりとした時間を過ごすのは。

何もすることがない時間の中

呼吸と

衣擦れの音。

付き合って

律の挙動不審がすこし納まったあたり
一回だけこうやって
寝たことがあった。


「ねないの?」

「ね ねますけど もうすこしおきてます
先輩がねるまで
起きてます」

「じゃあ、俺もお前が寝るまで起きてるよ」

「それじゃあ俺が寝れないです…先輩」

「クスッ そうだな


じゃ 一緒に寝よ」



結局あの日 どっちが先に寝たんだっけ

目をとじたのは同時だったよな

手をつないで
密着して





こんな風に。





「日向ぼっこっていいなあ

しかも猫と

先輩もあの部屋でこういう風にしてたのかな」


先輩

律がどんな顔でそういってるか
高野はこわくて顔をあげられなかったが
恐る恐る
律の指がのどに触れたのを感じた。


「たかのさん、おそいね」


ああ。律の目が若干さびしそうに揺らいでいる。
それだけでいい。


だって去年まではありえなかったんだ。



この部屋に





小野寺 律が居るなんて。



「お前のなまえ、なんてゆーの?」

律がこちらに向けてそういった。

猫が答えれるはずもない質問を
堂々としてくる律が
なんていうか可愛い。なにしてても可愛い。

だから一応

高野は


政宗 とだけ鳴いた

「お前の鳴き声かわいいなあ


そうだ俺が名前つけてもいい?」


まあ、そうなるだろうな。
変な名前つけなきゃいいけど。

律は 優しく 優しく笑う。

なんて愛らしいんだろう。

ほかの猫たちは馬鹿じゃないのか
と高野は耳をひくひく動かした。


たしかにこいつは普段目つき悪いわ
ひどいことを言うわだけど
本当は優しくて負けず嫌いで正義感があって
中途半端なままにしない努力者で
魅力はくさるほどあるんだぞ。


高野がそう思っていると
照れた様子で律は続けた。


「あのね 俺が昔から好きな名前なんだ


お前はなんか似てるから







まさむね」



高野が大きく目を見開くと

いやだった? と律はたずねてきた。

それでも高野はまだ呆然としている。



おまえ、いまなんつった?


人の姿じゃないのが惜しかった。




抱きつきたい。
抱き寄せたい

高野がそう、願わなくても 律は高野にふれて
呟いてくれた。



空いた時間をうめるように 何度も何度も


「まさむね まさむね


政宗」
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