セカコイ 長編

□小野寺律=りっちゃん!4
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待ち合わせ場所、当たり前だが高野の姿があった。
律はおとなしめのロングスカートをなびかせ
覚悟を持った様子で、近づく。

それは高野も同じだったのかもしれない。



高野は優しげな表情ではなく

怒ったような

悲しんでいるような

そんな表情だった。









(高野さんだってバカじゃない

気づいてるな 俺がお金目的で近づいたこと)





でも

じゃあなんで もう一度会ってくれたんだろう。








「…あ、本屋…寄っていいですか?」

律がおそるおそるそう聞くと
高野はなんかほしいのか と聞いてきた。
ああ
とことんお金をもぎ取られると思ってるんだろう。

違うのに



あんまし、お金をかけなかった

初めてのあの前回のデートが


今まで生きてきてした中で一番楽しかったなんて




あんた、知らないだろ。






何も言い合うことなく、二人は本屋に入った。
ブックスまりも
やたらイケメンな店員が本を整理しているが
律の頭の中には高野のことしかない。


「この少女マンガがお勧めでー」

「うそー! すごーい」


歓声を背後に律が雑誌のところに並ぶと
高野はなにを見るでもなく
律を見ていた。


…いやだな、こういうの



でも仕方ない か。



別れましょう はいさようなら

って訳にはいかないんだから…。











『あずさちゃんのためになるんだよ』


別れる女のために今好きな人をだます

笑えるな
と思いながら現実逃避で律は雑誌『ひととき』をめくり

織田政宗の新作を眺めた。


はやく単行本にならないかなぁ

『青空のワルツ』

情景がうまくて、日常のなかにちりばめられた出会いが幻想的で
本当にあったことなんじゃないかって思える作品なんだ。
ヒロインにも共感ができて…


そこまで考えてうっとりした




矢先だった。










パーマ髪のセーラー服。

知り合いじゃあ、ない。



いっちゃわるいが特別かわいいってわけでもない。



けれど律はその子の手元に

釘付けになって固まる。







店員は気づいていない。在庫を確認したり雑談したり宣伝をしたり

それぞれだ。






女性もの雑誌の付録。

ポーチを、高校生らしき女は


買わずに かばんの中に入れようとした。



沈黙が痛い
いや、騒がしいはずの店の騒音を
耳が受け入れないのだ。

(…店に被害がでる   ってよりはさ)





律は気づけば読んでいた雑誌を置いて、その女の子に近づき肩をたたいていた。

特に どうこうしてやろう
って考えを持ってるわけではない。

だから…。
叫びだそうとする女に律は微笑みかける。

大丈夫 大丈夫

と目で 伝えて。





やめときな

君には


律の微笑みは あまりにもやさしくて
女は目を見開いて固まっていた。



「落ち着いて、俺店員じゃないから
誰にも言わないよ



ただね 今回見つからなくても
最近防犯はげしいからすぐにみつかっちゃうよ

次にはやめるって器用なまね
できないのが人間だからね。


そしたらたかだか付録でとるのやめときゃよかったって思っちゃうよ

だからやめようね」





未来があるんだから



「す、すみません…いやなことがあって…むしゃくしゃして…いや、そんなの理由にならないけど…すみません…」



女はあやまりだす。
律にあやまっても仕方ないのに ただ、ひたすら


ひたすら。



店員が別の意味で視線をやりそうだったので
律はこっそり付録を戻してやった。



たぶん もう万引きしないんじゃないかな

派手な髪型の割りに
目はデビューしたてのギャルのような

弱弱しい茶色の瞳孔だったから…。





(よかった。偽善でも あんな子つかまっちゃったらかわいそうだ)











「店、でるか」


「おわああ!?」



「…お前 俺がいること忘れてたろう」


「ああああ、いええすみません
そんなまさか」



突如かかった声に飛び跳ね律は高野に謝罪した。

すんません。一瞬ガチで存在忘れました
とは

言えずに。



二人 外に出ると





あの一部始終みられてたんだなと思い
耳まで真っ赤にした律の横
高野は口を開いた。









「お前さ―…」








「…?」














ザアアア…。
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