セカコイ 長編

□小野寺律=りっちゃん!3
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地下。


にぎわう食堂で

二人の女が向かい合っていた。






それを見ながらも周囲は黙々と注文したものを口にいれていく。
誰も
どうしたの? とは聞かない。

なぜなら触れるだけで
火の粉が飛んできかねない顔をし合っているからだ。


「あなたが、あずさ さん ね」


「そーだけど?」


あずさ

とよばれた女は、ふふんとした様子でご自慢の黒髪を掻き分け
少量のクッキーを口に運んでいた


そして舌でころがして一言。

「あーだめだわ
なんでおいしいクッキーって必ずナッツを散りばめるかね
ナッツ嫌いな人の気持ちわかってないね

ほら、あげるよ。もうおなかいっぱいだから。




杏ちゃん だっけ?」


放り投げられたクッキー

杏は、いらないですとそっけなく言った


間接キス しかも敵と
そんなのはお断りなのだろう。
女同士だからいいじゃんといっているあずさは杏を敵視していないらしかった。

「あとうちマカロンもだめ
着色料の味しかしない」

杏がなぜ此処にきたかは分かっているだろうに
あずさは関係ない話をふり
杏をみる。
それにむかついて杏は言い返した。

「りっちゃんはマカロン好きですよ?」

「あっそ。まあモデル顔にぴったりな
お菓子ではあるよね」

「…」

杏はあずさに律についてくわしい自分を
ねたむように仕向けたのだが

あずさは乗らない。
ただ、一人で うんうんと納得しうなづいている。


「りっちゃんと別れて」


もう時間がない

余談をする仲でもない。

杏は言い切った。

すると あずさは 目をそらす。



別れない
とでもいうつもりだろう
しかし答えはすこし違った。






「まだ別れないね」


「え?」





杏は驚いてぽかんと口をあけた。
まだ?
ということは時期に別れるつもりなのだろうか

そっか

やっぱり遊びなんだ

杏の中から不安が解けていく

それと同時に分からなくなる。










あずさ   この女の




望みはなんなのか。



「じゃ、うちはもう行くわ」

「え!? ど どこに?」

「決まってんじゃん」







なびく黒髪

指を唇にあて、去っていく女に
食堂に居る男も女も
見惚れていた。






「惚れた男を幸せにしにいくんだよ」





それに唯一見惚れなかった


取り残された杏は一人 思考にくらんだ。






(あずささんは

りっちゃんが好きなんじゃない
だって私に嫉妬すらしなかった。
ほかの人がすきなんだ
じゃあ

りっちゃんは利用されてる
助けないと





はやく      はやく…)





その思いは
時とともにただ加速度をましていくのだった。
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