セカコイ 長編

□小さな恋物語@
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律が撫でると
猫はするりと逃げるか
威嚇して鳴く。

子供は嫌そうな顔をして逃げていく。

律の本質がバレているからだ

と友達から言われて
律は密かに納得した。


(だって俺は

誰からも好かれやしない。

分かってる。
そんなこと
今更誰かから言われるまでもない)



「あははー。災難だったねりっちゃん。
ほらドラ焼きあげるよ」

「俺がそんなんで機嫌なおると思ってるんですか」

「あのね
あの嵯峨君は誰にも懐かないんだよ。
俺なんてもっとひどいこといわれたね
おっさん
だってさ」

律に猫と子供がなつかない理由を教えてくれたその友達。

木佐翔太は

幼稚園に勤めて長くなる
だから此処では律の先輩だ。

友達なのに
敬語使わないと。
これだけでも悔しいのに
幼稚園に木佐が居てくれて
内心ほっとしているってのは
悔しいから絶対言ってやらない。

と律は固く誓った。

そうか。やっぱり嵯峨
はそういうキャラなのか。
誰にもなつかない?
律は首を傾げて言った。

「前の先生は? 俺の」

「ああ 横澤さん?

そういえば横澤さんには懐いてたなあ。
横澤さんも
此処だけの話。
あんな子供相手だけど
嵯峨くんのこと好きみたいでさあ
甘やかしっぱなし。
っていう俺も雪名狙いなんだけどねー!
雪名最高! 王子様!」

そういやコイツ
男好きの
ショタコンだった。

自分の顔がショタなくせして。
大丈夫なのか?
この幼稚園。

律がそう思い落ち込んでいると
木佐はなぐさめるように両手を広げた。

「まあ そう落ち込まずに
エメラルドぐみは
基本いい子だよ。
嵯峨くんが捻じ曲がってるのも
親が育児放棄しちゃってるからなんだ。
繊細だから聞かないであげてね」

育児放棄

ね。

律は頭を掻き
溜息をついた。

「本当…。
嵯峨くんはりっちゃんとは真逆だよね」

「うん」

「大丈夫 りっちゃん」

「え?」

木佐の顔が近付いてきた。
今は休み時間。
園児は隣の部屋で寝ている。
さっきやっと寝付かせたのだ。

「俺は
俺だけはね
りっちゃんが恵まれた
ただの、のうのうと暮らしてきた幸せ者だなんて思ってないよ。
嫌がらせで七光り
とはよく言うけど
りっちゃんは幸せ者なんかじゃない
だって
りっちゃんは

目が笑ってないもん

恋を知らない

誰も愛せない

愛を感じたことがない」

木佐は真顔だ。
相変わらずの黒髪と
吸い込まれるような大きな瞳が
色っぽい。

「りっちゃんは可哀想な子。

だから
俺が教えてあげるよ」

え?
なんかこの流れおかしくない?


下には敷布団がある。
ちょ!??

律はいつのまにか押し倒されていた。

そういやそうだった!

律は青ざめる。

(コイツ俺のことも狙ってるんだったー!)

木佐とは予備校先で友達になった。
木佐は講師をやっていたのである。
そんな
木佐に押し倒されたのははじめてじゃない。

律が中学生のときに15回。
高校生のときに30回。

何度かはキスもしている。
全部流されてしまってるのだ。
っていっても性行為まではしてない。
いっつもじゃれあいや
ヌキ合いで終わる。
いや
それでも十分やばいんだが。


「りっちゃん…」

いや
何!?
その色っぽい声!

もうすぐで口と口が重なり合うだろう
そのとき

部屋の扉が勢いよく開いた。

そして…

「木佐さーん!!」

律が比較的いい子
だと判断したはずの
キラキラとしたオーラをまとう
園児が
押し倒されているのは律の方なのに
危ない!
と言って律を蹴飛ばした。

軽いキック。
でも精神には重い。
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