セカコイ リクエスト小説

□巡る初恋
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涙こぼしても
汗にまみれた笑顔の中じゃ
誰も気づいてくれない


だから




お前の涙を 俺は






*********



さえずりの声。それを合図に自動ドアが開いた。自室が自動ドアなんて豪勢だけど
ざんねんながら自室じゃない。



「ねえ 俺何がいけないの?

退院したいんだけど」



暇で何冊も呼んでしまった本たちを横脇に
見舞いに来てくれた幼馴染に俺がそういうと

なぜだか杏ちゃんは悲しそうな顔をした。


痛いよ

このベッド硬いし
食事はまずいし
いいことなしじゃん。

そんな故意的にいじめなくたってさ。


「ねえ 杏ちゃん お父さんとお母さんは?


俺、クラスの委員長になっちゃったからさ
学校いかないと」





俺がそういったとたん
杏ちゃんはとうとう泣き始めてしまった。

なんで? 医者と何か話してるけど
内容はよくわからない。

耳がじんじんと痛い。
外の熱気のせい?

気まずかったから絵本にカオを向け
100万回生きた猫を読み直すと
そういえばこの夏を
何回 此処でむかえたっけ




俺はどうでもいいことを思った。










***********



「政宗君 ちょっと買い物行ってきてもらえる?」


あの家より過ごしやすくなった
四国での家。
まあ追い出された俺のやり場に困っているような感じだが
ばあさんはなかなか優しかった。


本を閉じ はい と短く声を張り上げると
換気をしようと開け放った窓から
数枚の花びらが入り込んで、俺の額に落ちた。

花びら…。


そういえば あのときも



そう思って俺は自嘲気味に笑い本を閉じた。


あきらめがわるすぎるだろ
って。

あの時ってのはほかでもない。
あの時だ。


心臓がはちきれそうだった。
名前を呼んだとき

俺の頭に手をまわしてくれて
優しくキスしてくれたお前の感覚を
俺は夢で何度でも見ている。


けど 起きたら誰も居ないんだ。




どうしようもないほど、一人なんだよ。







気だるいからだを起こして 木の階段をきしませながら下ると
ばあさんはお金をわたしてくれた。


それが 生活費だけを渡されていたころの
思い出と交わる。


「政宗君?」


「…いえ、なんでもないです」


鞄を提げ、歩く上り坂



信じられないよな。 あの生活費だって
渡されてた頃はまだ


おまえが居たんだ。




絶やすことなく 俺の心にともされていた。

優しい明かりは


お前がくれた 理由なき愛の灯だった。






たぶん こいつは


俺のことがすきだから


たぶん ただ

それだけ。







なあ。手 恥ずかしくても 振り払わないでくれよ。


「っっ…」


お前のほうから 好きって言ってくれたのに。

それともなんだ?

お前はいろいろなものを抱えていたのか?

それだっていってくれなきゃわからないだろ。


涙こぼしても
汗にまみれた笑顔の中じゃ
誰も気づいてくれない


だから




お前の涙を 俺は



知らない。
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