セカコイ リクエスト小説

□黒猫少年と僕
1ページ/4ページ



絵本を開きっぱなしでうとうと。

律の隣では 柔らかな音が聞こえていた。

猫ふんじゃった

猫ふんじゃった

白く柔らかい指が ぴょんぴょんっと鍵盤の上で跳ねている
幼馴染を見て
律は首をかしげた。

「ぼく、のらねこ見たことないなあ」

幼馴染…杏は 律が声をかけてきたのが嬉しかったらしい
ぱぁっっと笑い
巻き毛をゆらしながら
わたしもよ と微笑んだ。

そんな杏のひざの上には 毎日ブラシされている目が青く白い体毛の
海外からとりよせた猫が礼儀正しく
寝そべっていた。

「ねえ エグマリヌ」

猫の名前だ

「わたしのとこばかりじゃなくて
りっちゃんの方にもいってあげて」

さくらんぼ色の唇がそうつむぐ。
エグマリヌ
宝石の名前をつけられているその猫は
律をうっすらと見ると
静かにすりより
杏と律

両方の機嫌をとるように

中間にすわった。


そう


律は しつけの行き届いた







のまわりですごしてきた―…


だから…。






「ぎにゃーっっ」

媚びるわけでもない鳴き声
するどい爪

律がはじめて野良猫を触ったのは
切り傷が入ったボスのような体格の
発情中のメス猫だった。

手に残る三つの線

そこから血が 滝のようにだらだらと…。


「っっ〜〜〜」

しかもその事件は登校中におき、引き返そうものなら家族に一大事と思われ
学校についたらついたで すぐさまホームルーム遅刻厳禁という状態で…


どうしよう
痛いのに治療するタイミングもない



律はひたすら泣いたのだったー…。





「っっ」


汗だくの体

起きると同時 そこはあの頃の子供部屋のように不必要に広くもない
平均的な(ごちゃついた)男の部屋だった。

「はあ…今日は 休みか」





猫は苦手だ。

ほんとうに。

今でも手をみたらあのときの傷が浮かぶようで。

(われながら些細な痛みをいつまでも覚えてると思うが…)

今だからこそ
しょっちゅう転んで怪我をする律だが

昔はそりゃあもう大事にされ
怪我をする経験なんてなかったのだ。
だからあの時
ひっかかれたなんて、一番の怪我だった。

そりゃトラウマにもなるわけで


(まあいいや。
猫に嫌われてたって死ぬわけじゃあるまいし)


律はせっかくの休日を堪能しようと
いろいろな本をあさりだした

すると本をよんでてふと思い出す

作家さんの原稿のこと


高野に聞きに行きたいが

どうしようか。




(まあいいか 今日中に聞かなくたって
死ぬわけじゃ


って、そういう思考いけないだろ!)


律は自分を叱咤し
起き上がる。


いざ、自分とは正反対な
猫好きな彼の元へ。



隣だけどね。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ