セカコイ 短編

□夫婦ごっこ
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俺たちは 夫婦ごっこなんだろうか。







橙いろの光の下。



食卓に並ぶ、俺が作った料理たちが
白々しく顔をそろえている。

「いただきます」

どちらとも言わずにそう言うと
俺はまだまだ下手でところどころ焦げている
その部分をまず最初に口に含んだ。
すると
別にいいのに
と向こう側で明るい声がする。

私にばっかり美味しいとこゆずって


りっちゃん損してるよ


いやいや 俺はそんなことないよ
と笑う。
目の前で そう? と返す
幼馴染は昔は可愛かったのに
今は
うんと綺麗になった。









数ヶ月前。俺たちは結婚した。
両親があっというまに手続きした
結婚式会場はよく分からない記者とかお偉いさんとかきていて
誰が主役だよ とつっこみたくなるようなものだった。

そろそろ時間じゃなかろうか。

そう思い
大げさすぎしないか
という赤い戸を開けると、その先に居たのは
家族と真っ白なウェディングドレスに身を包んだ幼馴染だった。

まだ着付け中だったのか

くすくすと着つけの係りの人が笑う

「せっかちな旦那さんですねぇ」

俺は一瞬


だれのことだろう


と思い

ああ 俺だ

と気づいて 微笑んだ


「きれいだね」

きれい

きれい


杏ちゃんは、口でそうもごもごと繰り返すと

嬉しい と微笑んだ。

よかった ちゃんと喜んでくれた。
それだけで俺も幸せだ。

そんな俺たちの甘い時間もおいて、互いの両親があーだこーだ言い合う。


このたびはうちの息子が

いえいえ 娘が

小さいころから一緒でしたものね

照れちゃって なかなか付き合わないものだから

子供は何人かしらね

など。

おいおい 子供は早すぎやしないか
と思うんだけど

俺は杏ちゃんの手を出来るだけ自然に引いた。


「いこうか」

「…うん」



どうしたんだろう。結婚しよう

と俺が切り出して 杏ちゃんは最初喜んでくれたのに

ときどきこうやって暗くなってしまう。

友達に相談したら

マリッジブルーだよ
と言っていた。

結婚前に突如不安などのせいで
憂鬱になってしまうという症状だ。

だとしたら夫の俺がちゃんとしなくてはいけない。

だから戸を開けたままにしたり
足元気をつけて
とエスコートすると


杏ちゃんは突如

ぽつり

と言った。


「よかったの?」


俺は一瞬

どきり としてしまう

それから 自分でも驚くくらい
すごく自然に笑った。


「なにが?」




それで、この会話は終わりだ。


俺と杏ちゃんは笑って別れ
俺は先に式場に
杏ちゃんは後から入場すべく待合室に向かった。



ステンドグラス

赤いカーペット

俺は等身大の鏡でスーツ姿を確認して


よし、と頬をたたいた。






幸せにしよう

杏ちゃんを


そして神父の前 俺たちは誓いのキスを交わす。

どこか事務的で
周りに囃し立てられたそれは
緊張で感覚なんて分からなかった。


「誓います」



(よかったの?)



「誓います」



鐘がなっていた。

空に
式場に響くそれは

どこまでも延々とつづいていて












俺たちははれて幸せになれるのだと


この時は すくなくとも

信じていた。
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