セカコイ 短編

□君の幸せ
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「すみません! 入稿遅れました!」

「わかったから次取り掛かれ!」

「吉川千春のがまだ来てないぞ!」

「逃亡しました!」

激昂が飛び交う周期中のエメ編で
イケメン集団は見る影もなく
やつれ 乱れていた。

散らばった書類。
律は急いで席につき
何度目かわからない意識の遠のきを感じ
まだ現世に踏みとどまらなくては
と頬をつねった。

これから印刷会社に電話をしなければいけない。
作家との打ち合わせも残っている。

事前に高野から叩き込まれた
説得方法を脳内で繰り返し
律は拒否反応の起きる指を叱咤して電話を掛け捲った。


今が朝か昼か夜か
なんてどうでもいい。

とりあえず今月もコレ
を乗り越えなくては。
生きていけない。

いっそ精神病にでもなった方が楽だ

律は走り回りながら
カロリーメイトをつまんだ。





こんな多忙な日々。
そのせいでエメ編をやめよう
という暇がなく
やめることなんてできない。

それに

漫画家からの期待。
これが一番でかいだろう。

なるほど

佐伯の言ってたことがよくわかる。

この仕事は

そう。

たちの悪いヒモ男に引っかかった気分だ。

律が本当に振り回されてる相手は
エメ編の編集長なのだけれど。


そんな風に思いながら迎えた


修羅場明け。


(ああ やっと終わった…)


高野からは プライベートで会いたいから
すぐにメールしろ
と来ていたが
そんなものは当然スルーし
喫茶店で本でもよもうと
律は行き着けの喫茶店に入ろうとした。

けれど入る前に
律は窓際に座る人影にびびり
立ち止まってしまった。

(って 横澤さん…!?)

と…少女!?
もしこのペアだけだったら

律は高野が横澤をフッた衝動で
横澤が妙な性向へ走ってしまったのでは
と勘ぐるところだが
どうやら違うようだった。(当然だが)


向かい側に遠めなのでよくわからないが
どっかで見たような
顔のいい男が座っているのだ。
いかにもできる男って感じで
髪がふにゃふにゃで
今風 ってところだろうか。

横澤は
律には絶対向けないだろう
優しい笑顔を浮かべて
少女をみている。

なんだ

事情はわからないが…。

(横澤さんにも大切な人ができたんだな)

なぜだろう。

さびしく思うのは。

横澤とけじめをつけてくれた
高野
だったが。
告白を聞き逃されたおかげ? で
自分らは何の進展もないのだ。

だから
あんな風に穏やかにお茶することもできない



みせつけられただろうか。
やはり
さびしい。今のこの
状態が。

横澤が聞いたら激怒しそうな
今の状態。
律がたった一言。

好き

といえば

塗り替えられる

この

状況

「でもなあ」

親のこととか
会社のこととか

十年広がった傷とか

こっちにはいろいろあんだよ。

律は誰とも構わず言い訳をして
帰途についた。


高野はまだ会議中だ
だから
マンション。
高野の部屋の前の人影に
不審を抱くのは

律としては当然のことだった。
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