過去拍手文3

□拍手文T
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「お前の好きなどら焼き、買ってきたぞ」
「わぁっありがとうございます!
大好きです!

あ、 あぅ どら焼きが」


大好きというワードをいったとたんすごい真剣な目でみられたのであわてて付け足す。
わざとらしかっただろうか
珍しく火照ってしまい、俺は仕方なく毛布をとった。


「ふぅん、どら焼きが、ね」

「いや本当どら焼き好きですよ。なんなら押し入れに住んでもいいくらい」

「どらえ〇んになろうとしてるんじゃねえよ
あとやめとけ俺昔押し入れで試しに寝て風邪ひいたから
やっぱちゃんとした場所で寝るのがいいんだよ」

高野さんからそう聞いて
俺は高野さんの昔をおもいだす
ひきこもりっちゃん!





「……58…」

網戸の編み目の数を数えていく。
読む本がなくなってしまったので、アマゾンからとどくまでが本当に暇なのだ。

暇をつぶしてくれる人は
隣にいるし
外にいる。

でも、いけないから。でたくないから。



「70…」

俺はこうやって真剣に編み目を数えることしかできないんだ。
あ、小バエが死んでる…。

俺もいつかこうやって、誰にも知られることなく、網戸の隙間に挟まって死ぬのだろうか。


「どうせ死ぬなら こう世界にむかってきた隕石にたいあたりして軌道を変えて死ぬみたいなのがいいよね…」


「ひきこもりのくせに壮大な死に方期待してんじゃねえ」


気付いたら、高野さんが後ろにいた。
本当、ニンジャみたいな人だ。
片手には、紙袋。



そう 嵯峨だったあのころを。


押し入れに、窮屈そうに寝る嵯峨先輩。

なんだか想像するだけで笑えて
俺はクスクスと体をゆらした。


「お前、もっとそうやって笑えばいいんだよ

なあ、外いかないか?
俺、おまえとデートがしたい



お前に見せたい景色があるんだ

お前と行きたい場所があるんだ


ダメか?」

ああ、甘えるみたいに。
ずるいとおもう。
大人の色気を振りまきながら、漆黒を揺らしながら。

だけど俺は、首をふる



ごめんなさい。



俺がそういうと、高野さんは寂しそうに
俯いた。


でも 本当に…ごめんなさい。 そんな、今更外にでるなんて。


まず気力がわかない。

「一歩ごとにどら焼き1個必要かなって」

「お前調子にのってると犯すぞ」








end

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