セカコイ・アンケートss

□ラブパニック!
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「ねえ どうしようりっちゃん」



そう言ってまつげを震わす

弱弱しい姿。


















けれど すっごくむかつく
慰めてあげたいと思えない。
だって目の前にあるこの体は

鏡で見慣れた




俺…。

そしてそれに対し






「っ…なんでこうなった」



そうつぶやいた自分の声は





五割増しに高かった。


















喫茶店で、アールグレイをすすっている杏ちゃんを見かけたのは偶然だった。
素通りしようか迷って
そして素通りしようとした自分を憎んだ。


高野さんのこととか

婚約のこととか

男として

話しておきたいことはたくさんある

あやまりたいことも。


俺は杏ちゃんが一人なのを確認して
やさしく背後から声をかけた。











杏ちゃんは、一瞬パッと笑って





それから冷静に


りっちゃん 久しぶり。






と告げた。



「ここ、座っていい?」

「もう、聞かないでよ いいよ」



「ありがとう」





俺たちは、自然だろうか。

座って微笑みあうと、周りから ちぇ、ここもカップルの巣か
なんて聞こえた。



まったく男女がそろうとすぐソレだ。


そういう雰囲気じゃないのは


見れば分かるだろうに。


でも結局赤の他人なんて興味ないんだろう
俺たちがイチャイチャしてないのを疑問がるでもなく舌打ちしてすっきりした客たちは赤いストローで混濁とした液を吸っていた。

それをぼぅっと眺めていた俺を
優しい微笑みを乗せて杏ちゃんは呼んだ。

「りっちゃん。


よかった 声かけてくれないかと思ったんだよ」



「それは」


一瞬そうしようとした罪悪感がちくりと胸をつつくが

杏ちゃんは気にしないでいいという風に笑う。


この 笑み。

ああ やさしいな

そうだ この子のこういうやさしいところが

女としてなんて不純な目じゃなくて

一人の『人』としてすきだったんだ



親さえいなければ

もうすこしうまくできたのかな。

こうおもうのは傲慢だろうか。



それから俺たちは、元々婚約者+幼なじみなだけあって話しを盛り上げ

しかし客層が増え始めたころには(二人ともそういうのに無駄に気を遣ってしまうタイプなので)

店を出た。







長い階段の前 語り合う。


あの受験のときは大変だったねぇ
とか
小学校のころの本結局返しそこねたよ
とか


色々。




そうして夕日が赤い目となり
俺たちを見下ろす頃

ソレ は起きた。

嫌な影が向こう側に見えたのだ。


やばい

と俺は身をすぼめた。


それは杏ちゃんも同時だった。

「あ、ねえ どうしよう あれお隣さんじゃない?
私と居たら誤解されちゃうよ

私が違いますって言ってこようか?」


「いいいいや 君がそんなことする必要ないさ」



「じゃじゃじゃあ、もう帰るね! ば、ばあーい」


「あっ ちょっとま」








長い階段


慌てて踏み出した足





宙に浮かぶその子を










もちろん  けがさせるわけにはいかず。

















一緒に巻き込まれ転倒した俺たちは


重傷ー










のほうがまだ良かった。



軽傷だけど こんな非科学的な目に遭うくらいなら。
いや、まあ杏ちゃんの体にけががなかったのは良かったけれどー。



俺たちは 体が入れ替わってしまっていた。











ねえ どうしようりっちゃん

それに気付いた杏ちゃんはすごい弱々しげで
俺は逆にこの現象に何でこうなったと忌々しげにつぶやいた。

しかし数分後


女の子のほうが状況に慣れるのがはやいというかなんというか。


背高いね

私って端からみるとこうなんだーへんなのー

なんて

杏ちゃんは立ち直りをみせていた。

そして


「もう りっちゃんのバカ すごい体痛いよ
これ戻ったら大変だよ! りっちゃんは病院行ったほうがいいよ!」


しばらくしてから
杏ちゃんをかばって出来た 『俺』のけがへの心配。

いやあ 女の子はころころ変わって困る。

この不屈な精神

本当に漫画編集だけで読み取れるのかね。

「あー気にしないで 俺は」


やっぱり慣れない
この高い声。
しかし杏ちゃんは両手を振った。

「ちょ、ちょっとりっちゃん
俺って言わないですごく変!」

とー。 うん たしかにね

でもね。

「…ごめん 
だけどその体で女口調もやめてほしいかなーなんて……」












ほんとう  なんでこうなった。










「というかこれからどうしようか。
後一時間後くらいに
私待ち合わせしてるんだけど 断った方がいいよね…」



「え、そ そうなの…?
俺が代わりにいくのは?」


「あ、できる?たぶん大丈夫だと思う
その人私のこと全然知らない人だから
行けばいいって感じ
じゃあ、ごめんね まかせちゃうかも

で りっちゃんはなんかある?」


「あ!俺はこれからなんっも用事ないけど
今その俺が持ってるお金でホテル泊まるといいよ!
すごいオススメのところあるからさ!」


「いや、いいよ私がりっちゃんの住んでるマンションに…」



「ほ、ホテルがいいって!」


「大丈夫だよ 私別にお隣さん狙ってないから…」



「そうじゃない! そうじゃないんだ へ、部屋が部屋で部屋だから…」






なぜだろう


俺が言い訳すればするほど 杏ちゃん(俺)の目はすっと細くなり
はいはい と言われた
わ わかってくれたのかな!
そうだよね わかってくれたよね
君は天使だもんね
俺のいやがることはしないよね!













てなわけで 俺と杏ちゃんは入れ替わって生活することになった。

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