過去拍手文2

□拍手文46
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それは、会社帰りのことだった。

めずらしく話しが盛り上がった俺と高野さんは

かつての織田と嵯峨のようで


周りの空気がピンク色だった。


するとそれを壊すのはお決まりの

震える携帯。
まだワンコールしか鳴ってないのに俺の携帯を奪った高野さんは俺の代わりに電話に出た。


「もしもし」


まあ、この男の俺様はいまさらなのではやく返してください! と隣で怒鳴っていると
高野さんは

「ピーという発信音の後に
ご遺言をどうぞ ピー」


とか言い出した。






おい さっきの着信音杏ちゃんからだぞ。



俺はキレて高野さんから携帯を奪い
謝罪をしようと口を開いた。

「あ」



『なによっばーかばーか! りっちゃんにきらわれちゃえ!』


しかし杏ちゃんは遺言を言っている最中だったらしい。
うん。杏ちゃん 君の遺言それでいいのかな
損しちゃうよ、人生半分くらい。



「…。あ、もしもし杏ちゃん 俺だよ」

だからそうやって声をかけてやると
杏ちゃんは泣きそうな声になってしまった。
ああ悪いことしたな。
でも最初に出る高野さんが悪い。


で、どうやら杏ちゃんの用事は
合コンに誘われてしまい、断れなくて
居酒屋にいるのだが男たちが気持ち悪い
助けてということだった。


うん うん。



「ちょっと高野さん俺合コンいってきます」


「てめぇ 俺がいってらっしゃいとでも言うと思ったか」

「でも杏ちゃんが危ないんですよ!」


「お前は俺と杏ちゃんどっちが大事なんだよ!!」


「……あん」



「(あん)た。  か、フン、やっとデレたな
じゃあその合コン俺もついてってやるよ
ようは男も女も追い出せばいいんだろ」


「くそ、あん まで言い切ったのに
なんてプラス思考なんだ…」




ぶつぶつ言い合い
杏ちゃんの電話での誘導にまかせて
俺たちが入った居酒屋は魚○というところだった。


居酒屋というには雰囲気がいい。

これならくつろげそうだ。



奥の席、すでに杏ちゃんとその他女子と
取り囲む下品そうな男が居た。
なにやら王様ゲームとかやっているらしいが

入ってもいいんだろうか。



「あ、りっちゃん!!








とお隣さん」

しかしそんな危惧もそっちのけに杏ちゃんが
両手をふって俺たちを歓迎してくれたので
ほっとして近づいた。
ちなみに男たちはいやな顔をしている。


「うん、遅れてごめんね ひさしぶり

ほら高野さんも挨拶して」


「律は俺のだ」


「それ挨拶!!?」



すでに目立っている俺と高野さんの姿は
チャラ男たちにどうつったのだろう。

なんかぼそぼそ言い合っている。



「おいやべーよ
なにこいつら」

「俺一番格好いいっていわれてたのに
こいつらきたせいで一気に格下げされた気がすんだけど」


「かえってもらおうぜ」


「だな おれ今日の杏ちゃんって子お持ち帰りできたら十分だし」




しかしその内容は丸聞こえで。

杏ちゃんをお持ち帰りだって?


ふざけるな!

杏仁豆腐と一緒にするなよ!
怒りで顔が赤くなり俺は男の肩をつかんだ。


「あの、すみません
杏ちゃん帰りたいみたいなので、もういいですか」



「はー? なんで お前がそんなの決めるんだよ

なあ 杏ちゃんうそでしょ?」


「うそじゃないです! 私さっきから帰りたいって言ってるのに!」

「女の帰りたいとかいやは 全部うそだもんねー?」





なんて下劣な笑いだろう。
そうして俺が怒っていると
その他もろもろの女は高野さんに張り付こうとしていた。

ちょ、杏ちゃんも助けなきゃだけど
高野さん浮気しないかな…気になる…

ちょっと男側に意識をむけつつも
高野さんのほうの声を聞いておこう…





「ねー 名前なんていうのー?」



「小野寺…」




「へー小野寺君っていうのー?」


「小野寺こっちみろよ」


「趣味はー?」


「律…」


「律? 旋律? あ、ピアノ?」



「触りたい…」


「やーん かっこいー!」



す すごい!
会話が成立して? いる!




「ねえ、杏ちゃんかえろーか」


「いやっ りっちゃんがいいの!」





しかし高野さんはなんとかするとして
杏ちゃんがそろそろ危険だ

俺は無理やりはいけませんよと微笑んで
男に回し蹴りをした。



すると高野さんも女たちを跳ね除け
杏ちゃんと俺の腕をつかみ走るではないか。




どうするの この状況。


「に、にげましょう!」


「そうだな そのつもりだ」



運のいいことに、顔はまだ把握されきってないだろう。それに、あれは正当防衛だし
ああいうチャラ男は警察が苦手だ。
駆け込めるはずもない。

居酒屋 ○民はどんどん遠ざかっていった。

「お隣さん走るのはやい! スカートめくれるじゃないですか!」


「安心しろ みねーよ別に律のスカートの中身しか」


「すみません俺が日ごろからスカートはいてるみたいな言い方やめてもらえませんかね」













走りつかれた先
丘の上。








闇が増した空を見上げ
俺たち三人は息をついた。








「くすっ こんなに走ったのはじめて」





「あはは だね」




「はっ、くだらねー」







横になる


草むらの上






心地よい風。









なんだか、今は嫉妬も婚約も過去も未来も
親族も有耶無耶なくて





俺たちは気づけば笑いあっていた。












すっかり大人になった俺たちの




くだらないほどに


なんでもない ある日の一日の話。

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