過去拍手文2

□拍手文43
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で? この本はこいつとこいつが結ばれてハッピーエンドっと。


…。

やっぱそうだった。



俺は本を閉じた。ああ、どこいったんだろう。
あの本を読んでいるときの高揚感と達成感は

一体どこに。





ガチャッ。



「…!」



「あははー」
「でさぁー」



図書室に入ってきたのは女子生徒二人組み。
本をよむようなやつらではないから
きっとメンバーが集まるまでの暇つぶしにきたのだろう。


「あっ嵯峨く〜んいつも此処にいるのー?」

「…べつに ばいばい」


俺はとうとう此処に居る気もうせて、学生かばんを背負い図書室から出ようとした

その瞬間、ふわりと


カーテンが丸く膨らむ。





…あ。


あいつに告白される前

俺はこうやって…


ここから


あいつの姿を




ふらふらと引き寄せられるように窓の方へ行って俺は並木道を見下ろした。

あの茶髪の頭が

エメラルドの瞳が


俺を捕らえて


俺をみて微笑んで







「…あ…」



誰か居る…!?

いや、それだけだったら驚かない

あれは織田じゃないのか?

学校にきてたのか!?




俺は図書室に残ってたやつらが驚くぐらい
柄にもなく慌てて学校内を走った。
飛び出す。
まだそいつは 本を読みながらぼぅっと歩いている。







「り…」




いいかけて、やめた。


そいつは

俺よりわずかに背丈が高かった。










ああ。そっか

また勘違いか





そっか。





「…どうしたの? そんなに慌てて」


本を閉じて、振り返ったそいつは茶髪を揺らし
優しく、うすく笑った。


律の子犬のような笑顔じゃなくて
もっと弱いものを見守るような…
そんな顔あいつは絶対しないのに…

けれど顔のパーツ 姿

律と瓜二つだ。


律をそのまま成長させただけだ。


前髪が変わってはいるけれど…。




「大丈夫?」


問いかけられる。
そりゃそうか。気になるよな急に目の前に飛び出してきたら。


「なん…でもないです」



「そう」



会話が終わった。
赤の他人であるそいつはもちろんもう、用はない。
出て行こうとする


その姿が俺を蹴り倒したあいつとかぶる


胸が強張って苦しい 苦しい


待って。

俺を置いてかないで

「あ、んたなんで此処にいんの
教師?」


俺の呼び止められ そいつは少しエメラルドの瞳を大きくすると
また笑った。

「…そうだね 卒業生 とだけ言っておこうか」


「なんだよ その意味深な」


「あはは、ほかに言い様がないからね。

ねえ、唐突だけど君は戻したい過去がある?」


なんだ なんでこんなタイミングにそれを聞く


あるに決まってる。



あの日


律と寝た後…


すると、そいつは俺のそんな表情を読み取ったように語りだした。


「まあ、あったとして、さ。そこに戻ったとしても本当にそれは解決されるかな?

問題が起こる直前に戻ったって
その問題が起こる伏線はもっともっと前から張られていたかもしれないんだよ

だったら直前じゃおそいよね

最初からやり直さないと



でも所詮同じ人間だからまた同じ間違いをする



じゃあどうすればいい?

最初からそんなもんやらなきゃいい


恋愛だったら

その人と最初から出会わなきゃいいってわけ

そしたらつらくて泣くことも
夜中に何度も起きることも
似てた人を見かけて走り出すこともないだろう


ねえ








嵯峨君」





ああ。 なんだ これ



「君もそう思うだろう」


同意を求めて、手をのばしてくるソイツ

そうか

お前は  お前なのか。





未来の律か。







大人になったんだな
考え方も
表情も


だけど ごめん


俺は首をふる。そいつは裏切られたような顔をして固まる







「つらいよ。毎日泣きたいよ

でも


お前と出会わなきゃよかったとは

思えないよ」









どちらかも分からない涙がつたった。



次、風が吹いた時






景色は無人の並木道だった。




赤い本が落ちている。

白紙だ。何ページ目を開いても
ずっとずっとずっと。




そして最後。たった一言



『君が忘れることを選んでくれたら
俺も忘れよう


でもそうしないのなら

これから先想像つかないほどの苦しみを味わい
慟哭し憎み
世を嫌うだろうけど




十年後 会おう 約束だよ』




周りがざわつきはじめる
そうだな。いつまでもここにいちゃ変だ。
俺は本を抱え

帰路についた。




十年かあ。長いなあ。


親の離婚も間近だろう どこに俺は身をよせるのやら。

大体どこかに行ってしまった律だって
もう彼女がいるかもしれないし
俺が見えないところで
キスを交わしているのかもしれないし。





でも

その約束があるだけで


目を閉じる 未来を想像する。








笑いあう
怒りあう姿が浮かぶ

自然な恋人同士 同居がいいけど
隣同士ってのもいいな








なあ 律



また会ったそのときは






幸せになろう










この世に








なきゃよかったものなんて きっとひとつもないんだから。


きっと


ぜったい。








end

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