捧げ物!

□セウト。
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鬼編集長として名をはせている高野の
こんな趣味がばれたら
信頼は一気に失われ それどころか通報されるかもしれないな

と思いながら

高野はいつもどおりタバコをふかし
喫茶店の窓辺でただ一点を見ていた。


喫茶店にこの時間帯に居座る人間のすることはそれぞれだ。

新聞を読んだり

鼻歌を歌ったり

明日を嘆いたり 等々。


けれど高野は違う

目的があって ここに居る。




この角度が一番見やすいからだ。




















小学校のプール。










そして狙いの少年は 案の定見学で

居た。


一応水着は着ているらしく
水滴をまとい成長しきっていない四肢をさらして少年は日光の下に居た。




ああ なんて綺麗なんだろう

あのまま絵画にしていいくらいだ。





ここでなら

食い入るように見てていい。

そして周囲も

俺のことを格好いいだなんていっているから
こんな崇高な趣味に気づかないだろう









そんな風に

俺はその 少年となんの接点もなく生きていた。






つい最近までは。







しかし運命の歯車はある日突然
神の肘にでもあたったのか
ぎゅんぎゅん回り始めたのである。




その夜は
上司と折り合いがつかず飲み疲れ果て路上にうずくまっていた。

あと五分

あと五分したら家に帰って

明日の準備をして

それから  それから。


すると そんな俺をせかすように
誰かが近づいてきた。


俺は とっさには分からなかった

ソイツ が 誰か など。


おにーちゃん どうしたの
おなかいたいの


小さい手でぺしぺしとたたかれる感覚
うざいな と思って見上げると





「あ」



やわらかい栗色の髪

おだやかな目つき

年の割りに大人びた物腰







ずっと見てきた 少年の姿があって

思考がとまる。


ああ きれいだな



はじめて こんな近くで見た。


「だいじょーぶ? おにいちゃん」


「あ…ああ だいじょうぶ、だ」


かがんでいたから同じくらいの背丈だったが
起き上がるとそれはもう律の体は小さかった。

なんで名前知ってるか?って?

体育の時間走ってる最中みてたら
体操着に書いてあったからだ。

まあ それはさておき

この状況どうしようか


酔っているせいで歯止めがきかなそうな俺は
さすがに犯罪だと首をふり
わざとそっけなくした。


「さ、子供は帰れ こんな時間にうろつくな

男でも狙われるんだぞ」


俺とか 俺とか 俺とかにな。




すると律は、しゅんとした顔をした。

整った顔立ちに影が落ちる。


どうしたんだ?



足早に立ち去ろうとする 俺のすそをつかむ。








「あのねー そのね

俺ね 家出してきたの だから帰れないの」

「ああ そっか うん」


家出




家出ね。



!!!????




「お、おまえ 本当か!?」


「ほんとーだよ 星のおーじさまよんでたら
冒険したくなったんだ
いろんな世界行こうとおもって
パパとママに話したら実際にそんな世界はありませんって言われて

ばかなぁ! てさけんでとびだしてきたんだよー」


家出する理由が果てしなく くだらない。

いや



それは さておき















白状しよう。俺はこのときものすごい犯罪に手を染めようとしていた。









夜道



誰も居ない



会社から出て上司と飲んでいたんだから
アリバイがある


そしてこいつも 家出なら
両親にどこへ行くかは伝えていない。









これって





『誘拐』 できるんじゃ…?










「っなあ 律。 お前何日まで
両親に会えないの耐えられる?」


「?? なんでおにいちゃん俺の名前知ってるの? まあいいや

おーじ様は強いからりょうしんなんていらないんだよ
帰らないよ俺 帰るのは冒険の最後と決まってるのだ」


「そうかそうか 偶然俺の家近いんだけど

特別今夜泊めてやろうか」


「えへん 泊めてもらおうか えへんぷい」


律はえらそうに胸をたたいて
むせていた。

やばい かわいい。







そうして俺は、あたりを見回し律をお持ち帰りすることに成功したのであった。
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