セカコイにょた!

□恋の傷心2
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同棲三日目。


高野が作った煮物を食べながら
律は他人事のようにぼやいた。


「互いに浮気オーケーにしよう」


「…は?」


「うん そうだ それがいい」



高野が、 は? と聞いているにもかかわらず
律はほいほいと満足そうにその口に
すっかり味のしみたれんこんなどを入れていく。


「いや、最初は俺だけ浮気してやろう
うらみはらしてやるって思ったんだけど
それじゃあさすがにかわいそうだと思って。


互いに浮気オーケーだったらすごい気楽でしょ?



だって結婚って人生の墓場ともいわれるし
男にとっては重過ぎる鎖なんだよ
そのうち互いに浮気オーケーのありがたみに感動するさ
あんたも。

泣いて 泣いて

どうして私だけ見てくれないの

親が決めた結婚ふぜいで?

俺はそんな女々しい男になりたくないね

それにまだいろんな恋愛したいし
俺たちの結婚は若すぎるよ
大学卒業くらいさせてほしかった
可愛い子たくさんいるのに
もったいない」



色々― 言ってやりたかった。


けど魚の小骨のようにひっかかるワードたち。



女々しい男になりたくない?


可愛い子がたくさんいる?










『先輩』



『あのっ 先輩 私…』



今も昔もかわらない

天使のような儚さ

女でなければありえない 誘うような香りとやわらかさ―


けど 単に『男らしい』で片付けるのには何かおかしい。









昔はもっと胸があったような

声が高かったような


俺は箸をとめて 律を見やった。



「可愛い…男が好きなのか?」



「は?」


思いっきりにらんでくる律。

「まさか 男に可愛いなんてつかうわけないでしょ



女の子 ですよ










俺は 女の子が好きなんです





性的な意味でね」




とりあえず 夕飯おいしかった
ごちそうさま 明日は俺がつくります

律は適当に礼儀をのべて台所に皿洗いに引きこもった。

しかし俺は動けずに居る。







律   律   律


感情があふれかえる





ごめん



俺は聞こえて無くてもいいからつぶやいた










「ごめんな 律



この偏見のおおい世界じゃ


生きづらくなったな



お前は男としてもいい奴なのに

誰も理解してあげられてないだろ

ごめんな」














水の音


皿の汚れ


いや


関係を洗い流してしまいたいように

ただ無常に響いている








律もまた 聞こえなくていいから と思ったのだろう


水の音にまかせてつぶやいた。













「気持ち悪いっていうと思ったよ

とくに あんたは」














言うわけ無いだろ




会話を成立させたくなかったのか
水が一気に音を増した





律の性同一障害の重さに気づかされたのは
このように同棲してすぐの話だった。
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